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【特集】世界選手権へかける(17)…男子グレコローマン60kg級・松本隆太郎(群馬ヤクルト販売)【2010年8月30日】

(文=布施鋼治)
 


 弟・篤史(男子フリースタイル84kg級=ALSOK)とともに男子では史上初となる兄弟での同時世界選手権出場を決めた男子グレコローマン60kg級の松本隆太郎(群馬ヤクルト販売=左写真)。兄弟出場について水を向けると、「光栄です」と相好を崩した。 「試合にはずっと一緒に出ていたけど、2歳離れているせいか、インカレ(全日本学生選手権)でもそろって優勝することはなかったですからね。日本代表が決まると、両親はすぐにロシア行きの航空券を買っていました」

■笹本睦という大きな存在を乗り越えての 日本代表

 グレコローマン60kg級といえば、笹本睦が五輪3度出場を果たして長期政権を築き上げていたクラス。日体大では後輩にあたる松本にとっての笹本は、倒さなければならない敵ではなく、憧れの存在だった。「学生時代、全日本で2位になって、周囲も騒ぎ立ててくれたので、自分でも舞い上がっていた時期もありましたね」

 松本のお灸をすえたのは日体大レスリング部の藤本英男部長(当時)だった。「競技をやっていくうえで2番じゃ意味がないんだよ」「1番になれないなら、辞めた方がいい」−。藤本部長の叱咤に胸を打たれた松本は、決勝に進んだことだけで満足していた自分を恥じた。その甲斐あって、昨年6月の全日本選抜選手権では初めての笹本越えを果たす
(右写真)

 「笹本さんに勝った一番の原因は、やっぱり『自分が勝たなきゃいけない』と意識の持ち方が変わったことだと思います」。その勢いで、12月の全日本選手権でも笹本を返り討ちにして、この階級のエースにのし上がった。その間、初めて世界選手権にも出場している。初戦(2回戦)での緊張ぶりはいまでもはっきりと覚えている。

 「そんなに強い相手ではなかったけど、マットに上がっただけで舞い上がってしまって、何が何だか分からない状況でした。ただ、第2ピリオドからは自分の力が出せたかと思います」

■今年は4ヶ国で修行、海外遠征で課題克服

 一番印象に残っているのは、カザフスタンの選手との闘いになった4回戦だ。「どこが圧倒的というわけじゃないけど、テクニックにしろ、パワーにしろ、それぞれ自分よりひとつずつ抜けているような印象を抱きました。すべての面で上をいかれていたわけです」結局、松本は8位に入賞したが、その結果に満足はしていない。「8位といっても、勝ち点のうえでの8位ですからね。ベスト8という感じではない。今年はもっと順位をあげて表彰台に上がりたい」
(左写真=全日本合宿で最後の調整をする松本)

 世界との壁を痛感した松本は積極的に海外遠征へ。向かった国は米国、韓国、グルジア、ハンガリーと4ヶ国に及ぶ。「アメリカではオリンピック・チャンピオン(鄭智鉉=韓国)とも試合をしたけど、ボコボコにされました(苦笑)。韓国遠征での練習試合では圧倒されたわけじゃないけど、対戦相手に強さを感じました。ただ、海外遠征での経験は重要。いい経験をさせてもらったと思っています」

 海外遠征によって、自分の課題もハッキリと見えるようになってきた。「僕には笹本さんのようなスタンドの投げ技があるわけじゃない。泥臭くてもいいからスタンドでガンガン前に出ていってワキをさすというスタイルを貫きたい」。2度目の世界挑戦は間もなくだ。


 松本隆太郎(まつもと・りゅうたろう)=群馬ヤクルト販売、2年連続2度目の出場
 1986年1月16日、群馬県生まれ、24歳。群馬・館林高〜日体大卒。高校時代の2003年に全国高校生グレコローマン選手権と国体グレコローマンで優勝。日体大に進み、2年生の05年に学生二冠王、国体2位など。翌06年は学生タイトルに見離されたが、世界ジュニア選手権7位、全日本選手権2位など。
 07年はアジア選手権に出場して5位に入賞するとともに、全日本学生選手権と国体で優勝。全日本選手権でも2位へ。手首の手術で戦列を離れたあと、08年国体で復活優勝。09年の全日本選抜選手権とプレーオフで勝って世界選手権代表へ。8位に入賞した。10年も世界選手権の代表へ。168cm。



◎松本隆太郎の最近の国際大会成績

 《2010年》
 
【6月:G・カルトジア&V・バラバーゼ国際大会(グルジア)】=21選手出場
3回戦 ●[1−2(1-3,1-0,0-1)]Revaz Lashkhi(グルジア)
2回戦 ○[2−0(2-0,3-1)]Gogita Gogiberashvili(グルジア)
1回戦  BYE

 
【3月:ハンガリー・カップ(ハンガリー)】=25選手出場
敗復戦 ●[0−2(0-1,0-1)]Soner Sulu(トルコ)
2回戦 ●[0−2(0-4,0-1)]Hasan Aliyev(アゼルバイジャン)
1回戦 ○[2−1(0-1,2-0,2-0)]Edward Barsegjan(ポーランド)

 【2月:デーブ・シュルツ国際大会(米国)】2位(11選手出場)
決  勝 ●[0−2(0-3,0-3)]Ji-Hyun Jung(韓国)
準決勝 ○[2−0(2-0,2-0)]Jeremiah Davis(米国)
2回戦  ○[2−1(1-0,0-2,4-0)]Jiang Sheng(中国)
1回戦   BYE

 《2009年》
 
【9月:世界選手権(デンマーク)】8位(36選手出場)
1回戦  BYE
2回戦 ○[負傷棄権、2P2:00(0-2,TF6-0=1:09,Inj)]Ta Ngoc Tan(ベトナム)
3回戦 ○[2−1(0-1,1-0、TF6-0=1:21]Artak Harutyunyan(アルメニア)
4回戦 ●[0−2(0-4,0-1)]Nurbakyt Tengizbayev(カザフスタン)

 《2007年》
 【5月:アジア選手権(キルギス)】5位(10選手出場)
3決戦 ●[0−2(0-3,0-3)]Sheng Jiang(中国=盛江)
準決勝 ●[0−2(3-4,TF0-6=1:45)]Moon Ho Seon(韓国)
2回戦 ○[2−1(TF0-5=1:42,6-1,4-3)]Kamol Khalmatov(ウズベキスタン)    
1回戦  BYE

 【3月:ハンガリーグランプリ(ハンガリー)】
2回戦 ●[1−2(1-2,1L-1,0-3)]Hugo Passos(ポルトガル)
1回戦  BYE

 【2月:アクロポリス国際大会(ギリシャ)】
2回戦 ●[0−2(0-3,0-3)]Hristos Gikas(ギリシャ)
1回戦  BYE



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