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【特集】世界選手権へかける(20)…女子55kg級・吉田沙保里(ALSOK)【2010年9月2日】

(文=布施鋼治)
 


 世界選手権8連覇、オリンピックと合わせると世界10連覇に向け、女子55kg級の吉田沙保里(ALSOK=左写真)はマイペースで調整を続けている。8月18日にスタートした全日本合宿初日に足首をねんざしたが、その口ぶりから焦りは感じられない。

 「軽いねんざで、ちょっとくせになっているところ。おかげで、自分より体重が重い相手とはスパーリングすることができませんでした。その代わり、高校生とか自分より軽い階級の選手とけがをした箇所を確認しながらやっていました。今はもうだいぶ良くなっています。大会までにけがを治して、100%の力を出せるようにやっていきたい」

■“直球一筋から、変化球を使って”攻撃の幅を広げる

 8月21日の公開練習では、新たなタックルの存在を明かした。その名も「振り子タックル」。いわゆる″崩し″として数えられるテクニックのひとつだ。「飛び込みタックルばかりやっていると、腰に負担がかかるし、相手にもばれやすい。年々マークが厳しくなってきているので、私とやる相手は手を前に出してがっちり組んだりしてくる。そうやってきたら、相手の首に手をかけて引っ張って、相手の腕を払ってタックルに入る」。吉田によれば、2008年北京五輪決勝の許莉(中国)戦でフォールへとつながったタックル
(右写真)も、この振り子式だという。

 全日本女子チームの栄和人強化委員長(至学館大教)はまな弟子の成長に目を細める。「今までの吉田は上下にフェイントをかけながらの飛び込みタックルしか使っていなかった。でも、それだけだったら研究もされるので、返されたり、防がれたりしてしまう。今でも吉田は飛び込み式で得点をとることができるでしょう。でも、最初はそれを隠しておいて、この振り子式でも得点をとれるようにする。そうすれば、技のバリエーションも増えるし、飛び込み式も効果的に使えるようになる」と、新たなタックルをマスターした相乗効果を説明する。

 要するに、直球もあれば、変化球もあるということ。「いつのまにか吉田は現役時代の高田さん(裕司=現日本協会専務理事)と富山さん(英明=現日本協会常務理事)を足して2で割ったようなオールラウンドの選手になってきたような気がします」と続ける。

 栄委員調の思惑通り、吉田は今回のモスクワ世界選手権で、相手のタイプや出方によって、どんなタックルで攻めるかをその場で瞬時に決めるつもりだ。「組んでくる相手が多ければ多いほど、この振り子式は使いやすい。なるべく気づかれないで入るには、自分から組んで仕掛けるこのタックルが有効。これは一番仕掛けがバレない大人のタックルですね(微笑)。実際飛び込み式より得点がとれる確率は高い」と言う。

■“カレリン超え”はリップサービス! 考えていることは、この大会で優勝することだけ

 国際大会で優勝を重ねるにつれ、自分に対するマークがきつくなってきていることは肌で感じている。「海外に行くと、ウォーミングアップの時でも結構見られているというのは感じます。でも、私とやったことがない選手は私がどう攻めるか予測できない。自分の力を出せば、大丈夫かなと思います」
(左写真=全日本合宿で練習する吉田)

 今大会は、五輪3度を含め12度の世界一というアレクサンダー・カレリン(ロシア)の記録に一歩迫る大会となるが、吉田は意識していない。レスラーとしても“大人”になったせいだろうか。吉田はリラックスした面持ちで「こうやって聞かれると、よく載せてもらうように『カレリン越え』とか言っちゃいますけど、いま考えているのは、ホント優勝することだけ。記録は自然にあとからついてくるものだと思っています」と言う。

 果たして、モスクワで絶対女王の前進を拒む者は出てくるのだろうか。


 吉田沙保里(よしだ・さおり)=ALSOK、8大会連続8度目の出場(五輪2度を含め10度目の出場)
 1982年10月5日、三重県生まれ、27歳。一志ジュニア出身。三重・久居高〜中京女大卒。少年少女レスリング時代から名をとどろかせ、同世代の大会で無敗。99年世界カデット選手権優勝のあと、00・01年の世界ジュニア選手権で2連覇。02年はアジア大会で勝ち、世界選手権に初出場初優勝。続く全日本選手権でも勝った。
 03年に世界V2を達成し、04年のアテネ五輪で優勝。05年にワールドカップ、アジア選手権、ユニバーシアード、世界選手権、06年にワールドカップ、世界選手権、アジア大会と優勝を重ね、2007年もアジア選手権、世界選手権で優勝。08年1月のワールドカップで連勝記録は途切れたが、同年のアジア選手権で優勝して再起。
 同年の北京五輪で2連覇を達成し、続く世界女子選手権でも優勝。09年の世界選手権でも7度目の優勝を遂げた。156cm。



◎吉田沙保里の最近の国際大会成績

 
《2009年》
 【9月:世界選手権(デンマーク)】
優勝(27選手出場)
決  勝 ○[2−0(3-0、TF6-0=1:16)]Sona Ahmedli(アゼルバイジャン)
準決勝 ○[2−0(3-0,3-2)]Tonya Verbeek(カナダ)
3回戦  ○[フォール、2P1:20(3-0,F3-0)]Ana Maria Paval(ルーマニア)
2回戦  ○[2−0(1-0,2-1)]Anna Gomis(フランス)
1回戦  ○[2−0(TF8-0=1:24,TF7-0=0:55]Rafaliharisolo Maminirina(マダガスカル)

 
《2008年》
 
【10月:世界女子選手権(東京)】優勝(23選手出場)
決  勝 ○[負傷棄権、2P1:03(1-0,5-0)]Lazareva Tetyana(ウクライナ)
準決勝 ○[フォール、1P0:25(F4-0)]Laverdure Brittanee(カナダ)
3回戦  ○[フォール、1P0:40(F2-0)]Zwirydowska Anna(ポーランド)
2回戦  ○[フォール、1P0:20(F6-0)]Kamlesh Devi(インド)
1回戦   BYE

 
【8月:北京五輪(中国)】優勝(16選手出場)
決  勝 ○[フォール、2P0:43(2-0,F5-0)]Xu Li(許莉=中国)
準決勝 ○[2−0(2-0,6-0=1:59)]Tonya Verbeek(カナダ)
2回戦  ○[2−0(2-1,4-0)]Natalia Golts(ロシア)
1回戦  ○[2−0(3-1,4-0)]Ida-Theres Nerell(スウェーデン)

 
【3月:アジア選手権(韓国)】優勝(11選手出場)
決  勝 ○[2−0(1-0,TF6-0=1:58)]Abdrakhmanova Saltanat(カザフスタン)
準決勝 ○[フォール、2P0:53(1-0,7-0)]Otgonjargal Naidan(モンゴル)
2回戦  ○[2−0(3-1,6-3)]Xu Li(許莉=中国)
1回戦  ○[2−0(1-0,3-0)]Tomar Alka(インド)

 
【1月:ワールドカップ=団体戦(中国)】=個人順位不明
予選3回戦 ●[0−2(1-4,2-AB)]Marcie Van Dusen(米国)
予選1回戦 ○[2−0(1-0,5-0)]Nataliya Synyshyn(ウクライナ)

 《2007年》
 【9月:世界選手権(アゼルバイジャン)】
優勝(38選手出場)
決  勝 ○[2−0(1-0,TF7-0=1:00)]Ida-Therese Karlsson(スウェーデン)
準決勝 ○[2−0(1-0,TF6-0=0:42)]AlenaFilipova(ベラルーシ)
4回戦  ○[2−0(@L-1,4-2)]Olga Smirnova(カザフスタン)
3回戦  ○[2−1(2-3,2-1,3-0)]Jackellne Renteria(コロンビア)
2回戦  ○[フォール、2P0:36(4-0,F6-0)]Joica Silva(ブラジル)
1回戦  ○[2−0(3-0,TF6-0=1:12)]Jessica Bechtel(ドイツ)

 【5月:アジア選手権(キルギス)】優勝(9選手出場)
決  勝 ○[2−0(5-0,5-2)]Su Lihui(蘇麗慧=中国)
準決勝 ○[フォール、1P0:24(F4-0)]Hong Hyang-Rae(韓国)
1回戦  ○[フォール、1P0:57(F7-0)]Su Ying-Tzu(台湾)



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