▲一覧ページへ戻る


   

【特集】準決勝で古傷再発! 痛恨の銀メダル…女子51kg級・堀内優(日大)【2010年9月9日】

(文=保高幸子、撮影=矢吹建夫)




 昨年、代表権を獲得したものの、肩の手術に踏み切ったため辞退した世界選手権。その“幻”の舞台から1年。女子51kg級の堀内優(日大)の初めての世界選手権は、銀メダルという苦い結果に終わった。表彰式でも、そのあとの報道陣の前でも声を上げて泣き(右写真)、悔しさを表していた。

 初の世界選手権は、昨年の世界チャンピオン、ソフィア・マットソン(スウェーデン)と初戦激突という試練でもあった。マットソンは昨年19歳で世界チャンピオンになり、今年も欧州選手権とゴールデンGP決勝大会で優勝し絶好調。堀内が第1ピリオドを取られてしまったのは、緊張で固くなっていたのかもしれない。しかし第2・3ピリオドは1ポイントずつ獲得し、初戦にして決戦ともいえるマットソン戦を制した。

 3回戦のアンジェイア・ドロガン(アゼルバイジャン)には第1・2ピリオドをしつこく攻め圧倒し(5-0、2-0)、準決勝のロクサナ・マルタ・ザシナ(ポーランド)に対しても危なげなく白星をあげ、初出場で金メダルの期待がかかった。

■不可解な判定で、相手にポイントが入った!

 だが、準決勝で異変が起きていた。ラスト15秒の防御で、手術した右肩を再び亜脱臼してしまった。マットを下りる堀内は肩をかばうしぐさ。関係者の間では棄権するのではないかと思われたが、だが堀内は決勝のマットに上がった。相手は2009年世界3位で今年欧州選手権3位のオレクサンドラ・コート(ウクライナ)。堀内が昨年のワールドカップで勝っている相手だが、堀内の右肩にはそれと分かるテーピングが施してあった。

 試合は、堀内が肩をかばいながらも相手の攻撃をしのいで、第1・2ピリオドとも0−0からのボールピックアップ。出たボールはどちらも青で、コートの攻撃権。第1ピリオドは堀内が守り切れず0−1。第2ピリオドは堀内が守り切ったように見えた。しかし審判団の判断は相手の1ポイント。

 日本陣営はチャレンジ。会場に映し出された映像では、堀内が相手の攻撃をしのぎ切った上にポイントを取ったように見えた。しかし、しのいでなかったと判断されたようで、相手のポイントとなる不可解なジャッジ
(左写真=赤の堀内は、この体勢でテークダウンを取られたと判定された)。銀メダルが確定した。

 肩をかばいながら闘う姿を、会場全体が見つめていた。肩を痛めているのは誰の目にも明らかだった。しかし堀内は「けがは関係なく、消極的なのが(負けた)原因です」とかすかな声で振り返った。「(前の試合で坂本)日登美さんが優勝して、あとに続きたかったけど、緊張もあって…」。大舞台での緊張は最後までとけなかったようだ。

■消極的になってしまった決勝戦を悔やむ

 「自分のレスリングをできないと勝てないと、身にしみてわかりました」と涙ながらに語った。今回、経験豊富な坂本と同部屋となり、「いつも通りのレスリングしたら優勝できるよ、と言われていたのに…」と、消極的になってしまったことを悔やむ。だが、自分から攻め、自分のリズムに持っていくことの大切さを学んだだけでも、次のチャンスが広がるはずだ。

 2012年ロンドン五輪では、階級変更して55kg級に挑戦することを公言していたが、そのことを聞かれると、「まずはこの階級(51kg級)で優勝できないと…。(これから)悩むと思います」とうつむいた。

 初めての世界選手権で世界チャンピオンを破り、肩を痛めながらも決勝を闘い抜いた闘志は称賛に値する。まだ19歳の堀内。ロンドン五輪までには、まだまだ時間がある。若い堀内が、これからシニアの闘いの経験を積めば、ロンドン五輪で大輪の笑顔の花を咲かせられる可能性は十分にある。



  ▲一覧ページへ戻る