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【特集】1年間の出場停止処分を乗り越え、10月14日、日体大が大会復帰へ【2010年10月13日】

(文・撮影=増渕由気子)



 昨年9月に発覚した部員の不祥事で出場停止処分を受けていた日体大が9月28日、処分を解除され、10月14日に開幕する全日本大学グレコローマン選手権(東京・駒沢体育館)に、チームとして約1年1ヶ月ぶりに大会復帰することになった(右写真:左から時信光一フリースタイル主将、山名隆貴主将、渡部友章グレコローマン主将)

 当初は大会出場のみならずチーム練習も禁止された。今年4月からは部としての練習が認められたが、9月27日までは、約20名の新入生も含む全選手が大会は出場停止のままだった。処分が解除され、県の代表に選ばれた選手は10月1日から行われた千葉国体に出場したが、日体大所属としては今回の全日本大学グレコローマン選手権が正式な復帰戦となる。

 千葉国体に足を運んだ新任の松本慎吾監督は「やっと日体大本来の姿になった」と念願の復帰にホッとした様子。この1年間、あらゆる面で部のあり方を見つめ直してきた。「学生とともに生徒活動をしたり、合宿所に寝泊りして生徒との距離を近くとりました」。70人もの部員をこれまで以上にまとめあげるため、松本監督なりに工夫してきた。「人間的に成長できる部でありたい」。1年かけて“再生”した日体大がついにマットに戻ってくる。

■「試合に復帰できることに感謝の気持ちを忘れない」…松本慎吾監督

 過去の過ちが消えることはない。松本監督は「被害者の気持ちは、これから何十年経っても変わらない。それを忘れないように、そして試合に復帰できることに感謝の気持ちを忘れずに前に進んでいきたい」と決意を語った
(左写真:チームと松本監督=背中)

 東日本学生が参加できる学校対抗戦のうち、東日本学生リーグ戦、全日本学生王座決定戦はすでに終了している。4年生のだれもが出場できる個人対抗戦の全日本学生選手権も終わっており、残る大会は1大学から各階級1選手しか出場できない全日本大学グレコローマン選手権と全日本大学選手権(11月・駒沢)だけ。大学のラストイヤーに、試合に出ずに引退する選手もいるかもしれない。

 だが、4月から公式練習を再開してきた日体大の雰囲気は、依然と変わらぬ活気があった。山名隆貴主将は、「僕の代で一致団結させようとしてきましたが、ひとりでまとめるのは厳しかった」とこの1年を振り返った。その山名を支えたのが、フリースタイル主将の時信光一と、グレコローマン主将の渡部友章だ。練習はもちろん、以前より私生活の管理も力をいれてきた。

■出場停止処分によってOBと現役の気持ちがひとつに

 日体大は日本レスリング界の雄であり、伝統を支えてきた。ソ連崩壊後、旧ソ連勢に押されて海外での成績が落ち込んだ日本男子の五輪でのメダルをつないだのは、日体大を卒業した選手がほとんど。その伝統は学生選手の気持ちを鼓舞している。処分決定後、部を去った学生は数名ほどに留まり、現在も約70名が在籍。規模はまぎれもなく日本一。その誇りを胸に、この1年を過ごしてきた。

 この現役学生たちに心を動かされた選手がいる。日体大で練習を続けるOBたちだ。前田翔吾(ニューギン)、松本篤史(ALSOK)、松本隆太郎(群馬ヤクルト販売)、金久保武大(マイスポーツ)、斎川哲克(両毛ヤクルト販売)−。今年5月の全日本選抜選手権には、5人のOBが優勝。3月まで学生(大学院生を含む)で試合に出場できなかった前田、松本篤、金久保は、半年間の出場停止処分のハンディをはね返しての栄光。「学生たちは、まだ試合に出られない。だから自分が頑張らないと」と声をそろえた。

 OBのエールはしっかりと学生たちに伝わっていた。グレコローマンの渡部主将は「出場停止処分中、先輩たちの活躍にとても励まされた。世界選手権でも、一緒に練習している松本先輩がメダルを取って、金久保先輩も5位入賞。とても感謝しています」と話し、試合がなくても練習に気合が入ったそうだ
(右写真=大会へ向けて練習する渡部主将)

 大学グレコローマン選手権では、渡部は日体大のエースとして74kg級に出場。昨年インカレ2位の実績を生かして「僕は絶対優勝します」と誓った。フリースタイルの時信主将も今大会には出場予定。「今はグレコローマンに絞ってやっています」と、最後の調整に余念がない。

 渡部主将によると「最低でも55kg級、60kg級、74kg級の3階級を制し、ほかの階級でいかに点数を稼げるか」が団体優勝へのカギ。練習が解禁された4月以降は計量を行っての本格的な部内戦を行い、本番に近い試合感覚も経験してきた。練習してきたものを100パーセント出すことができるか。



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