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【特集】大クラブに成長した刈谷チビッコスクール、愛知県の新たな歴史を築くか?【2010年10月27日】

(文=樋口郁夫)



 ここ10数年の至学館大(旧中京女大)の躍進で、一躍注目を浴びている愛知県レスリング。活発なのは女子だけではない。至学館大より早い1987年に創立された刈谷チビッコスクール(創立当初は「アイシン精機ジュニア」=右写真)は、毎年春に大規模な合宿を行うなど地道な普及活動を続け、底辺拡大に尽力している。

 県のレベルを上げようとして創立した乙守豊監督は「『明るく、楽しく、元気よく、やるときには”やる”』(けじめをつけた行動)をモットーに、底辺を広げるための活動をしてきました」と振り返る。部員は、1990年に「15人」という資料がある。7、8年前も20人程度だったという。現在は67人。至学館大の躍進でレスリング熱が高まったのか、日本有数の大所帯クラブへと成長した。

 その中から、男子フリースタイル60kg級で昨年世界選手権5位、今年アジア選手権2位に入った前田翔吾選手(愛知・星城高〜日体大〜ニューギン)が生まれた。選手の力強いモチベーションになっているそうで、今後のさらなる発展が期待できそう。

■コーチの数が足りないという大所帯になったがゆえの悩みも

 7月の全国少年少女選手権(広島市)は「優勝2選手、2位2選手、3位2選手」の成績。しかし10月24日に行われた押立杯関西少年選手権(吹田市)は優勝がなく、2位1選手、3位3選手の成績。大会に同行できなかった乙守監督に代わり、松雪昌浩コーチは「ちょっと力が下がっていますね。これから盛り返していきたい」と、巻き返しを誓う(左写真=関西少年選手権の会場でひと際目立ったオレンジ色のTシャツ姿)

 週2、3回の練習には、常に50人くらいが参加している。しかし、それに見合うだけのコーチが足りないのが現状だという。学年別に分けて練習をやらせるなど工夫をしているそうだが、松雪コーチは「選手にはちょっと申し訳ないと思っています」と言う。 「部員を増やしたいが、指導者の数が追いつかないので募集できない」という悩みを持つクラブは少なくない。所帯が大きくなった刈谷市チビッコスクールだが、このあたりの克服が今後の課題となるだろう。

 教えるのはタックル、ローリング、ネルソン、アンクルホールドなど基本の技だけ。「週2、3回の練習では高度な技を教えられない。しかし、タックルはしっかり教えています」と言う。練習場所が近くで身近な存在である吉田沙保里選手(ALSOK)がタックルで世界を制したことを見て、タックルの重要性をさらに感じ、以前にもましてタックルに力を入れていることになった。

 乙守監督も「勝つことでレスリングの楽しさが分かる。勝つための練習は必要。しかし、レスリングの基本はタックル。攻めるレスリングを大切にしたい」と話し、まずタックルという練習方針を貫いてきた。「前田(翔吾)は、やられて泣いてばかりいましたが、それでも向かっていくハングリーさと、常滑から通ってくる熱心さがありました」と振り返る。高度な技より、やられても向かっていく気持ち、レスリングをとことんやってやろうという気持ちの養成の方が大切ということだろう
(右写真=保護者とともに負けた選手を励ますコーチ)

■毎年5月、多くのクラブを集めて2泊3日の大合同練習

 世界最強のチームがすぐそばにあるというのは、選手にとって大きな刺激材料だ。吉田沙保里選手や至学館大の選手から時に練習を教えてもらうそうだが、「世界トップ選手を見ることで、低学年の選手はそこに近づこうという気持ちになる。高学年の選手は技を教えてもらい、その中で近づいていこうという気持ちを持つ」という。 これは他チームにはない環境だろう。

 全国の多くの地区の大会に均等に出かけられることもメリットのひとつ。地元の中部大会のみならず、関東、関西、北信越へ同じくらいの時間と費用で遠征できる。同じ地域での大会ばかりだと、出場する選手の顔ぶれが変わりばえしない場合もあり、自分の本当の実力が分からない場合も出てくる。いろんな地区の大会に出られることの効果ははかり知れない。

 選手の大きなモチベーションになっているのが、毎年5月、アイシン精機の全面的な協力のもとで多くのチームを集めて開催する2泊3日の合同練習。1994年に国体を開催した常滑市などからもマットを借り、6面マットで実施する大規模合宿で、200人以上のキッズ選手が集まるという。初日が親善試合で、2・3日目が合同練習だ(2009年合宿写真)。

 遠征は、必ずしも全選手が行くわけではなく、実力的に「金を使ってまで大会に出場するのはどうか」という選手(家族)も少なくない。しかし、地元ならどの選手も参加できる。松雪コーチは「選手も保護者も『全国にはこんな強い選手がいるのか。もっと頑張らなければ』という気持ちになってくれますね」と言う。他クラブとの交流という貴重な経験にもなり、全国大会と同じくらい選手の目標になっているという。

 愛知県レスリングは至学館大だけではない。前田選手の奮戦とともに、活気づくキッズの世界にも注目だ
(左や臣=今年のアジア選手権で銀メダル獲得のOB、前田翔吾選手)



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