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【特集】フォア・ザ・チームに徹した岡太一、拓大が2年連続三冠王へ【2010年11月13日】

(文=樋口郁夫)



 今年の全日本大学選手権は、初日に3階級で優勝した拓大が最終日も120kg級に出場した岡太一の優勝を加え、2年連続の団体優勝。全日本学生王座決定戦、全日本大学グレコローマン選手権に続き、今季3度目の勝利の美酒に酔った(左写真)

 昨年に続く三冠獲得に、須藤元気監督は「うれしい。みんなと一緒に闘っての結果です」と選手をたたえた。5月の東日本学生リーグ戦で優勝を逃したあと、西口茂樹部長とともに選手に対して「(秋は)必ず優勝させる」と約束したという。その約束を達成できて感激もひとしおの様子。

 初日に3階級で優勝し、団体優勝をぐっと近づけたが、「そんな時にこそ、足元をすくわれるのが勝負の世界です。最終日は、いつも以上に気を引き締めて臨みました」という。

 「教えたものを、きちんと返してくれましたね」との問いかけに、「いえ、もらってばかりですよ」と即答。「若い選手たちとこんなふうに燃えることができるのは、人生において最高に価値あることです。青春を2回しているようなものです」と、学生時代に戻ったような感覚で今季の3大会優勝を振り返った。

■学生王者同士の対戦! 96kg級王者の岡太一が勝つ

 この日のハイライトは、120kg級に出場した岡太一
(右写真)の成績だった。結果は、学生王者の相沢優人(日大)を動きで翻ろう。一時はフォールの体勢に持ち込むなど(左下写真)、優勢に試合を進めて難敵を撃破。チームの期待に応えた。

 「思うように動かすことができませんでした。組み合いたくなかったのに、組み合ってこられた。勝負するしかなかった」という投げ技が決まり、勝負の流れを決めた。「運よく成功しました」とニッコリの岡にとっては、いつもとは違う大会前でもあった。体重を96kgまで増やす必要があったことだ。

 リーグ戦なら84kg級で計量した選手が120kg級に出ることはできるが、国際レスリング連盟(FILA)の規定に準ずるこの大会は、120kg級に出るには96kgの体重が必要だ。岡は今季3個の学生タイトルを獲得しており、学生四冠王の快挙を狙うなら、本来の階級である84kg級、そうでなくとも全日本学生選手権で勝った96kg級に出場するのが妥当だ。

 しかし、この大会は団体戦でもある。得点が他大学と競り合いとなり、120kg級勝負となった場合、少しでも強い選手を起用しておくに限る。そこで、チームの“無差別級の王者”の岡を120kg級に起用することになり、本人もチームのために快諾したという。

■試合前日に4kgの増量! 水を飲んでも吐き出す状態へ

 イタリアで行われた世界学生選手権に出場して5位となり、11月1日に帰国した時の体重は88kg。すなわち8kgの増量が必要だった。その日から食べる毎日が始まった。

 前日(11日)の午後、駒沢体育館に来た時の体重は92kg。思い切って食べて93kgへ。それから水を2リットル飲んで95kgへ。ここからが大変で、もう水がのどを通らず、無理に飲めば吐き出す状況だった。体重を落とさないためには、トイレも我慢して膀胱(ぼうこう)にも水分を入れておく方がいいが、我慢しきれずトイレに行った。

 すると、かえって体が楽になり、最後の1kgの壁を乗り越えて96kgへと増やすことができた。これも、すべてチームの優勝にかけるため。したがって、史上9人目となる学生四冠王について聞かれても、「ぴんとこないですね。120kg級で勝つために必死にやってきましたから」。あくまでもチームの勝利を目指して臨んだ大会だった(右写真:試合後、拓大名物「拓大踊り」で岡=中央白シャツ=らレギュラー選手を祝福する部員とOB)

■日本重量級の底上げにつながるか

 実は、決勝を待たずして拓大の優勝は決まっていた。岡が2位に終わっても、拓大の団体優勝は変わらなかった。本来より2階級上の階級であるし、負けたとしても失うものは何もなかった。しかし、闘う男の性(さが)が勝利を目指して全力ファイトへと走らせ、勝利を引き寄せた。この闘争心は、今後の選手生活に生かされるはずだ


 12月の全日本選手権は本来のグレコローマン84kg級で出場し、王者の斎川哲克(両毛ヤクルト販売)へ挑む。卒業後は「自衛隊でレスリング活動に専念したい」とのこと。松本慎吾という大きな柱が抜けた階級に台頭した若手成長株。日本重量級の底上げにつながる活躍が期待できる。



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