【特集】トップアスリートが学ぶ時代 −長谷川恒平、松本隆太郎、中村淳志・スポーツ科学を学ぶ−【2010年2月25日】

(文=久木留毅、日本協会強化委員会テクニカルディレクター)



 2年前、池松和彦選手(2009年男子フリースタイル66kg級全日本チャンピオン)が日本体育大学の大学院を修了したことを紹介しました(クリック)。昨年も男子フリースタイル55kg級の清水聖志人選手(筑波大学大学院)、同じく74kg級の長島和幸選手(早稲田大学大学院)が修士課程を修了しています。今年も男子グレコローマンスタイル55kg級の長谷川恒平選手(左写真)、60kg級の松本隆太郎選手、120kg級の中村淳志選手が大学院修士課程を修了しました。

 これまで日本レスリング界は、伝統と経験に基づき素晴らしい成果を上げてきました。しかし、現在、世界の多くの競技では、高速化/高強度化、高度化、高品質化、焦点化が進み、ハイレベルの戦いが行われています。永続的に伝統を守って行くためには、経験に加えてスポーツ医・科学・情報を駆使した強化が必要になっていくことが予想されます。

 2002年に開所した国立スポーツ科学センター(JISS)は、我が国の国際競技力向上をスポーツ医学・科学・情報面から支えている機関です。このJISSを当初から有効活用している団体がレスリング協会です。JISSの有効活用には、様々な事項があります。その一つが、ナショナルチームの定期的な形態・体力測定です。強化委員会では、独自に考案した項目をJISSスタッフの協力の基で測定を実施しています。毎回測定データーは、選手にフィードバックされています。客観的なデーターを基にコーチ陣が課題解決のためのアドバイスを行っています(右下写真=JISSでの体力測定。被験者は笹本睦選手、右端が久木留テクニカルディレクター)

 さらに、年1回開催されているレスリング協会の一貫指導の一つであるナショナル・トレーニング・システム(NTS)中央研修会でも、招へいされたエリートジュニア選手を対象にナショナルチームと同様の測定を行っています。これらのデーターは、スポーツ医・科学委員会の協力の基で、「コンディショニングブック」「トレーニングブック」「こころとからだのケアブック」等にまとめられ、正しいスポーツ医・科学に関する知識修得のための資料として役立てています。

 現在、強化委員会では、競技力向上のためにスポーツ医・科学を活用した様々な取組みを行っています。これらJISSやスポーツ医・科学委員会との連携・協力の中で重要なことは、コーチがスポーツ医・科学スタッフと一緒にディスカッションができることです。その意味からも、将来コーチになる可能性があるトップアスリートがスポーツ医・科学分野について学ぶことは、指導者養成という意味からも大きな意義があると言えるでしょう。もちろん現役の彼らがスポーツ医・科学の分野を理解することは、自分のデーターを理解することにつながり課題の解決に役立つでしょう。

 現在は現役のトップアスリートが大学院に行く時代になってきています。他競技団体に目を向けても、多くのトップアスリートがキャリアトランジション(引退後を考えた取組み)を考慮して様々な方法で学んでいます。

 多くの若いレスラーは長谷川選手、松本選手、中村選手を見習い、レスリングと同様にスポーツ医学・科学について学ぶ努力をしてほしいと思います。これからは、日本レスリング協会の良き伝統を引き継ぐと共に、スポーツ医学・科学の知識を学んだ知的レスラーを増やすことも必要な時代になってきています。

《長谷川選手の論文》「レスリング競技における敗因分析に関する研究」(PDF)

《松本隆太郎選手の論文》「大学レスリング選手における減量期間の違いが身体組成および筋機能に与える影響」(PDF)


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