【特集】63kg級でも世界トップ選手の実力を見せた山本聖子(スポーツビズ)【2010年1月31日】

(文・撮影=樋口郁夫)


■山本聖子の試合結果
 1回戦  ○[2−0(2-0,TF6-0=1:46)]Tchdenborzh(モンゴル)
 2回戦  ○[フォール、2P0:29(1-0=2:04,F4-0)]Elena Pirozkhova(米国)
 準決勝 ○[2−0(1-0.TF7-0=1:53)]Lubov Volosova(ロシア)
 決  勝 ○[2−0(3-1,1-0)]Yulia Ostapchuk(ウクライナ)

 2012年ロンドン五輪出場を目指し、現役復帰してきた山本聖子(スポーツビズ)がロシア最高レベルの国際大会「ヤリギン国際大会」で、4試合に快勝して優勝した(右写真=優勝を決めた直後の山本)

 決勝での対戦が予想された北京五輪銀メダリストのアレナ・カアルタショバ(ロシア
=「カルタホワ」と表記してきましたが、現地でのアナウンスに合わせ「カルタショバ」とします)は準決勝で敗れ、対戦は実現しなかったが、2008年世界2位のルボフ・ボロソバ(ロシア)を含めた危なげない試合内容は、この階級でも世界トップレベルの実力を証明したといえよう。

 「(相手が)重たかったです。パワーが違いました。疲れました」と、優勝の喜びより63kg級での闘いを終えてほっとした表情を浮かべた山本。計量は2kgオーバーの65kgで実施するので、63kg級の体になり切っていない山本からすれば、パワーの差はいっそう大きかったはず。

 だが山本には、63kg級の選手にはないスピードがあった。開始早々、軽快なフットワークを使ってマット狭しと動き回る山本の動きに、対戦相手の顔には一様に戸惑いの表情が浮かぶ。63kg級には、これほど軽快な動きをする選手はいないのだろう。

 動きに慣れて組み合う前に、タックルのみならず、必殺のアンクルピック(正面から相手の足首をすくって倒す技)や外無双など多彩な技で攻められては、攻撃の糸口を見出すことができない。4試合で25−1というポイント差(フォール勝ち1試合を含む)は、パワーの差をスピードで十分に埋めていたことの何よりの証明。今後はパワーアップを考えるより、従来の63kg級にはないスピードと多彩な技で勝負していくのでいいのではないか。

■試合を重ねるごとに落ち着いてマットへ上がれた

 復帰戦となった昨年8月のポーランド・オープンでは59kg級に出場して圧勝優勝を飾った。今回は63kg級での試合。前述の通り、「体重の違いが一番大きかったです」とのことだが、緊張の度合いはポーランド・オープンの時の方がはるかに大きかったそうだ。

 「慣れたといいますか、試合を重ねるたびに、マットに上がっても落ち着きが出てきました」と言う。試合を重ねるごとにひと回りも二回りも大きくなる若手選手のように、今の山本は試合を重ねるごとに実力を一段も二段も上げていっている。

 今後も、チャンスをもらえればワールドカップなどの国際大会の経験を積み、来るべきロンドン五輪での闘いにそなえたいという。それには国内での厳しい闘いを破らねばならないが、「国内、国外といった区別はありません。一戦、一戦が勝負です」と話し、目の前の闘いをきっちりとこなしながら、ロンドンへ近づいて行く腹積もりだ(左写真=世界V9のブバイサ・サイキエフから表彰される山本)

 五輪銀メダリストのカルタショバが反対側のブロックにいたが、山本は気がつかなかったという。対戦表はすべてロシア語だし、ここ数年マットを離れていた山本は、カルタショバの顔も知らなかった。もし対戦が実現しても、肩の手術で戦線を離れていたカルタショバに負ける要素はなかったと思われる。「北京五輪銀メダリストを撃破」という“肩書き”を取れなかったのは残念だが、世界V4の山本にとって、そんな肩書は必要あるまい。

■今後の課題のひとつは、子育てとの両立

 今回の優勝で、あらためて「海外には敵なし。国内大会の優勝こそが、五輪チャンピオンの道」ということを示した山本。今後の課題のひとつは、2歳になる長男・匠瑛(しょうえい)君の子育てとの兼ね合いだ。現在の練習は兄の総合格闘家、山本“KID”徳郁選手の運営するクレイジー・ビーでやっている。全日本チームでの合宿に参加し、大勢の選手相手に練習する機会がほしいところだが、子供をほったらかしにするわけにはいかず、全日程に参加することは厳しいことも出てきそう。

 「何らかの考慮をしていただけたらと思います」と口にする山本。全日本合宿参加だけでなく、ふだんから子育てと練習との両立は厳しいが、子供の存在があるから、頑張れることも事実だ。クラスノヤルスクからも毎日電話し、なんとか状況が分かるようになっている匠瑛君に「ママは頑張っているよ。もうすぐ帰るからね」と話しかけるなど、母としての責任を果たすべく努力をしている。

 公私ともに充実している山本。レスリング王国ロシアでの優勝により、大変ではあるが、さらに充実した毎日迎えることができそうだ。


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