【特集】「強豪若手選手が次々と出てくる日本を目指す」…全日本学生連盟・和田貴広強化委員長に聞く【2010年1月14日】

(聞き手=樋口郁夫)


 今年は2年に1度開催される世界学生選手権の年(9月または10月にイタリア・トリノで開催)。前回2008年大会では、日本の男子は、フリースタイルで金3個(55kg級=稲葉泰弘、60kg級=大沢茂樹、66kg級=米満達弘)と銅2個を獲得し、グレコローマンでも「銀1・銅1」の成績。シニアにつなぐべく学生選手の強化が順調に進んでいることを証明した。

 昨年秋、2008年北京五輪まで8年間にわたって全日本コーチを務めた和田貴広・前日本協会専任コーチ(国士舘大職)が学生の強化を担当することになった。上り調子の学生選手をどう強化していくのか。和田コーチに聞いた。


■シニアのレベルアップが、学生にも及んでいる

 ――昨年秋から全日本学生連盟の強化委員長として学生の強化を受け持つことになりましたが、現在の学生選手のレベルはいかがでしょうか?

 「国際的に通用する選手が以前より増えています。アテネ五輪や北京五輪ほかで世界で通用する日本選手が出てきて、日本のレベルアップが学生にも及んでいると思います。ルールの影響もあるでしょうが、大学に若い指導者が多くなったことも一因と思います」

 ――技術、体力の両面でレベルアップがありますか?

 「以前は体力で勝っていた面があったと思う。今は技術的にも、世界で通じるものが身につきつつあると思う」(右写真=指導者講習会で学生選手を指導する和田コーチ)

 ――この冬、学生選抜チームの欧州遠征が予定されている(両スタイルとも2月27〜28日にブルガリアの大会に参加予定)。ここで今の学生の世界でのレベルをある程度、見ることができると思う。

 「ダン・コロフ国際大会(フリースタイル)、ニコラ・ペトロフ国際大会(グレコローマン)とも、その年によってレベルの高低がある。今年はどのレベルの選手が集まるかは分からないが、大会に出てこそ自分の実力が分かるので、貴重な経験になると思う。いま世界でどんなレスリングが展開されているかを体感し、日本に持ち帰ってほしい。ただ、試合だけだと、なかなか自分の欠点を発見できない。現地チームと合宿を実施することで見えてくるので、3日間しかとれなかったが合宿も経験させる。大会でのメダル獲得も期待しているが、試合と合宿を通じて今の自分に必要なことを発見する遠征にさせたい」

 ――昨年までの学生選抜チームの冬の遠征先は米国だった。今年は初めて欧州に遠征にしますね。

 「若いうちにいろんな国のレスリングを体感してほしい。今回はヨーロッパの選手が多くする大会なので、ヨーロッパのレスリングを学ぶ機会だ。自分の身体的・体力的・技術的な特徴を考えて自分のレスリングを確立していってほしい」

 ――和田コーチは、大学の4年生の時(1993年)にアジア選手権に初出場して2位。翌94年はUS国際トーナメントで全米学生王者を破って優勝。その頃から世界で結果を残し始めましたよね。

 「最初は大学1年生の秋にカナダに2ヶ月半、留学しました。そのあとロシアに行かせてもらいました。最初はぼろ負け続きでしたが、『こんなもんか』と体で分かり、どういう練習をしていけばいいかを考えるようになりました。そのあとセルゲイ・ベログラゾフ・コーチ(ロシア=五輪2度を含めて世界V8)と出会い、力を伸ばすことができました。やはり外国選手と練習し、闘う経験が貴重でした」(左写真=昨年11月、セルゲイ・コーチがシンガポール・チームを率いて来日。その右後ろが和田コーチ)

■世界学生選手権の代表は全日本チームの合宿に参加させて強化

 ――今年は秋に世界学生選手権が控えています。どんな強化計画を考えていますか?

 「代表選手をできるだけ全日本チームの合宿に参加させ、ハイレベルの練習の中で強化したい」

 ――2年前の大会はフリースタイルで金メダル3個を取った。当然、今年も3階級制覇が望まれると思う。

 「世界学生選手権の日程がまだ定まっていない(注・国際学生スポーツ連の発表と国際レスリング連盟の発表とが違っている)。全日本学生王座決定戦、または千葉国体と重なる可能性もあるので、どういったメンバーが組めるか。ベストメンバーで臨みたいが…」

 ――これまでは、卒業して第一線を退きながら前年の学生王者だから代表になったという選手もいた。全日本学生連盟の滝山将剛会長(国士舘大部長)は「ご褒美遠征ではないから、世界を目指す選手を代表にしたい」と話していた(注・予選は行わず、選抜することが決まっている)。

 「基本的にレスリングのできる環境で活動している選手を選抜したい。世界学生選手権出場を目標としている選手ではなく、その次を目指している選手を選びたい」

 ――代表がまだ決まっていない状況ですが、期待する選手は?

 「フリースタイルなら60kg級の小田裕之(学生二冠王=国士舘大)、74kg級の高谷惣亮(学生二冠王=拓大)あたりになるだろう。84kg級の松本篤史(学生王者=日体大、現在はチームが活動停止中)も卒業するので、代表に選べると思う。いずれも全日本のトップ選手。高谷、松本は全日本のメンバーとしての国際経験もある。優勝を目指せる実力はあると思う」(右写真=全日本選手権で小田裕之を優勝させた和田コーチ)

 ――北京五輪までの8年間はシニアの強化に情熱を注いできましたが、今はシニアにつなげる若手の底上げが“仕事”ですね。

 「ロシアなど海外の強豪国は若い選手が次々と国内大会で優勝し、世界に出てきている。日本との違いを研究し、そうなるようにもっていきたい。ただ、日本もいい若手選手は出てきている。全日本選手権では高校生の森下史崇(55kg級=茨城・霞ヶ浦高)が世界選手権の代表を破った。そうした逸材をどう育てていくか。有能な若手を育て、足りない点、課題とする点を見つけて強化したい」


◎世界学生選手権のメダル獲得選手
場 所 階  級 選 手 成績
1996年 イラン グレコ48kg級 村田知也 3 位
グレコ52kg級 豊田雅俊 3 位
1998年 トルコ フリー58kg級 井上謙二 3 位
フリー63kg級 山縣健二 3 位
2000年 東 京 フリー63kg級 栗尾直樹 2 位
グレコ58kg級 笹本 睦 優 勝
2002年 カナダ フリー55kg級 松永共広 優 勝
フリー66kg級 長島正彦 3 位
グレコ66kg級 臼田育男 3 位
2004年 ポーランド フリー74kg級 長島和幸 3 位
2005年 トルコ グレコ74kg級 鶴巻 宰 3 位
2006年 モンゴル フリー66kg級 佐藤 吏 3 位
グレコ55kg級 長谷川恒平 3 位
グレコ120kg級 社藤哲也 3 位
2008年 ギリシャ フリー55kg級 稲葉泰弘 優 勝
フリー60kg級 大沢茂樹 優 勝
フリー66kg級 米満達弘 優 勝
フリー84kg級 門間順輝 3 位
フリー120kg級 中村淳志 3 位
グレコ55kg級 峯村 亮 3 位
グレコ60kg級 倉本一真 2 位
※大会は1996年から。2005年はユニバーシアード

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