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【特集】「勝って当然」の2連覇! 王者の風格が感じられた早大
【2011年5月21日】

(文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)




 これが王者の貫録というものだろうか。2年連続で東日本学生リーグ戦を制覇した早大(右写真)。どの選手の顔にも、そして会場に駆けつけたOBの顔にも、これ以上はないという笑みが満ちあふれていたものの、昨年の62年ぶりの優勝に比べると、どこともなしに「当然のことをしたまで」というムードが漂う優勝だった。

 昨年は、半世紀以上の時を経ての古豪復活という歴史的な優勝だったこともあり、駒沢体育館がゆれるような熱狂に包まれた。現役選手と、会場に駆け付けたOBとが一体となって歌った「都の西北、ワセダの森に〜」のカレッジソングが会場にこだまし、いつまでこの歓喜が続くのか、と思われるような雰囲気があった。

 今年の優勝に喜びが感じられなかったという意味ではない。どんな優勝でも、それを達成したあとは、喜びで充満するもの。コーチを次々と胴上げする選手の顔は満足感でいっぱいだ。しかし、どこかが違った。「都の西北」が響かなかったから? いや、それだけではない。

 昨年は優勝が目標だったのに対し、今年は、優勝は当然で、黄金時代を築いていくんだという気持ちで臨んだ気持ちの違いに起因するのだろう。今の早大は、レスリング界に万里の長城を築くという空気で満ちあふれている。「リーグ戦の2連覇くらいで心底から喜んでいられない、という気持ちが充満している」とまで書いたなら、褒めすぎか。だが、王者らしい風格が感じられた2年連続優勝だったことは間違いない。

■「こんな疲れなら、何度味わってもいいですね」…山方隆之・新監督

 半年前に伊江邦男・前監督からチームを引き継いだ山方隆之監督は「まだ監督らしいことはやっていません。学生たちがよくやってくれました。私が成長させてもらいました。学生に感謝したい」と優勝を振り返った。

 2日目には青山学院大に3−4の苦戦を強いられたことを、「気持ちを引き締め直すのにいい苦戦でした。この試合があったから、優勝につながったのかもしれません」と、予選最後の日大戦は軽量2階級を先制されるという展開だったことを、「それでも負けなかったことが、学生にとっては自信となり、決勝戦に迎えたと思います」と、それぞれ評した。逆境を強烈な武器に変え、勝ち取った優勝だった。
(左写真=優勝後、胴上げを受ける山方監督)


 山方監督は、昨年は観客席から優勝を見守ったという。戦力の厚さからすれば今年の方が優勝の可能性は高かったが、「観客席から、ある意味で第三者的に見た方が気持ちは楽ですね。今年は、正直言って、疲れました」と苦笑い。それでも、「こんな疲れなら、何度味わってもいいですね」と続けた。

 チームを率いた山口剛主将は「同級生と後輩に恵まれたことに感謝したい」と優勝後の第一声。周囲から「2連覇は固い」と言われていたものの、主将としてはそんな気持ちにはなれず、どんな練習がいいのかと悩んだ時もあったという。しかし、後輩が厳しい練習にもついてきてくれ、「やってきてよかった」と安堵の表情を浮かべた。

 66g級の田中幸太郎、74kg級の石田智嗣、84kg級の北村公平、97kg級の山口主将と、中量級から重量級にかけて盤石の布陣だった。それを指摘されると、「そんなことはないでしょう。どちらが勝ってもおかしくない、という対戦も多かったです」と言う。そこを乗り越えることができたのは、「厳しい練習を頑張ってきたことが、勝ち切れたのだと思います」と胸を張った。

■残る団体戦にも勝って、年間の三冠王を目指す

 チームスコアが3−3となった場合のために山口主将が120kg級に出場することも予想されたが、それはなかった。84kg級までに、どんなに悪くても3勝はできる、そして自分でチームの優勝−、という自信のなせるわざだろう。
(右写真=奮戦する山口主将)

 今年から全日本学生王座決定戦がなくなったため、この種の団体戦はリーグ戦のみ。それがゆえに、「ホッとしました」と話す一方、残る団体戦の全日本大学選手権と全日本大学グレコローマン選手権にも勝って「三冠王を目指します」ときっぱり。

 早大躍進の原動力のひとつに、高校三冠王者など強豪高校選手を何人も獲得している現状があるのは間違いない。しかし、それだけで強さを維持できるものではない。逸材をつぶしてしまうチームなら、いつしか強豪選手は来なくなり、チーム力は落ちていくだろう。山方監督は「選手が、ワセダに来て強くなった、よかった、と思ってくれるようなチームにしていきます」と話す。

 本当の意味での早大の躍進は、始まったばかり。いい結果が、いい補強につながる好循環は、どこまで続くか−。



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