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【特集】大震災を乗り越え、2選手がインターハイへ出場…岩手・宮古商高
【2011年6月12日】

(文・撮影=増渕由気子)




 6月5日−。インターハイ岩手県県予選が行われた日、東日本大震災で大きなダメージを追った被災地のひとつ、宮古市の宮古商高の上野堅太郎監督から吉報が届いた。「個人戦で2人通過しました。たくさんの人に支えられてここまで来ることができました。ありがとうございました!」−。(右写真=宮古商の選手たち)

 学校対抗戦では出場権を逃してしまったものの、個人戦で60kg級の千崎卓主将と74kg級の舘崎佑太選手の3年生コンビが見事に予選リーグと決勝リーグを勝ち抜いて2位に滑り込み、インターハイへの出場権を手に入れた。

■震災によって大きく成長した選手たち

 昨年まで同校の監督で、現在はインターハイのため県の競技事務局に出向中の村上和隆教諭も「インターハイを決めた試合は自分がレフェリーでして、千崎の手を挙げるとき思わず涙が出てしまいました」と感無量の報告。岩手県の個人戦はリーグ戦のため、トーナメントと違って「組み合わせの運」で決勝へ進むことはなく、本当に力を持った選手が残る。その中で2位になった千崎
、舘崎の両選手にとっては、試練を乗り越えてつかんだ全国への切符だ。

 村上教諭は「いつも惜しい負け方する子だったんです。でも、震災直後、まだ生きるか死ぬかの状況の下、避難所で子供たちが声をそろえて言ったんです。『レスリング、思いっきり練習したい』って。こいつらは本物のレスラーになったんだなって思いました」と話す。震災で大きく成長した子供たちの底力を見せ付けられたようだ。

 大会1週間前には、今年の東日本学生リーグ戦優勝チームの早大と合同練習を行った。村上教諭は日体大出身。早大の太田拓弥コーチが助手を務めながら1996年アトランタ五輪を目指していた時に入学した選手で、いわば同じ釜の飯を食べた仲間。

 その縁で、復興支援として太田コーチが宮古商高へレスリング指導支援にかけつけた。村上教諭は「支援してくださった翌日、久しぶりに練習を見たんですが、生徒の目が輝いていた」と振り返る。
(左上写真=太田コーチの指導。右端が千崎)

■北の空 被災地に無限の可能性−

 リーグ戦を連覇した早大にあやかろうと、大会当日は支援物資として贈られた早大Tシャツやお守りを身に着けて臨んだことも試合を盛り上げるきっかけとなった。村上教諭は「太田先輩はベストのタイミングできてくれました。高校生は気持ちですから、支援指導のおかげでインターハイつかみました」と何度も口にした。

 太田コーチは吉報を受け、「インターハイ出場が決まってよかった。指導支援のプログラムは多くのみなさんの協力で実行できたもの。早大ボランティアセンターが無料でバス1台を提供してくださり、ワセダクラブのワクワクレスリング(ダウン症と自閉症のレスリング教室)とキッズクラブからは多額の義援金や復興支援経費をいただいたんです。現地に赴いたメンバーだけではなく、多くの人の気持ちが宮古商業のみなさんに伝わったんだと思います。約束どおり、インターハイ前にまた練習に行きたいです」と話した。
(右写真=左から村上教諭、太田コーチ、宮古商高〜日体大OBの星政宏さん)

 「北の空 君に無限の可能性」−。今年のインターハイのスローガンそのままに、上野監督や村上教諭、そして宮古商業レスラーたちのまぶしい夏が始まろうとしている。



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