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【特集】沼尻久会長「開催できて感無量」−“被災地”水戸での全国中学生選手権
【2011年6月20日】

(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)




 中学生選手最大のイベントである沼尻直杯全国中学生選手権(全中)が6月11〜12日、例年通り水戸市の茨城県スポーツセンターで無事行われた。今年で37回の歴史を刻んだ同大会開催は、3・11東日本大震災の影響で苦難の道のり。それを乗り越えての成功に、全国中学生連盟の沼尻久会長は「開催できて感無量」と話し、例年以上の達成感があった。(右写真=会場での義援金募集)

■中止もやむなしだった大会だが、全国からの激励で開催へ

 東日本大震災により、会場となった水戸市も多大な被害をこうむり、ビーチレスリングの全日本選手権開催地でもある大洗ビーチは津波の被害を受け水戸市内は建物の被害が深刻。水戸駅は震災から3ヶ月経っても、駅前のデッキにひびが入ったままの状態で、震災直後の多大な被害が被害がうかがえた。

 全中は開催されるのか−。震災後の全国高校選抜大会(3月27〜29日、新潟市)が中止となったこともあり、全国の関係者から問い合わせが殺到した。幸いにも茨城県スポーツセンターの被害は最小限だったが、春の桜まつりが各地で中止されるなど3、4月は全国で自粛ムードが漂い、その流れで全中の開催も危ぶまれていた。

 さらに、水戸市の各体育館には全国から大量の支援物資が送り込まれ、使用許可の見通しが立たない日々が続いた。代替場所も見当がつかず、沼尻会長は「さすがに、中止も考えました」と開催を断念しかけたそうだ。折れかけた心を支えたのは全国からの激励だった。「関西方面の方たちから『ぜひ全中をやってくれ!』と激励されたんです。やはり全中は中学生にとって一番の花ですから、その花を添えたかった」。

 また、昨年で36年を刻んだ歴史が茨城県スタッフのプライドを動かした。「ここで中止してしまうと、全中が死んでしまうと思ったので、試合は強行させようと思いました」(沼尻会長)。最大の悩みだった支援物資は5月末までに移動する約束を県と交わし、4月下旬には協会HPに開催要項を掲載し、予定通り行うことを発表した。
(左写真:沼尻会長=左=と副賞寄贈の海老澤寛氏)

■最優秀選手に高級マウンテンバイクの副賞

開催しても不安はあった。事態が収拾していない原発問題をかかえる福島県は茨城の隣県。出場者が大幅に減るという予測があった。ところがその予想を覆して、例年通りの483人がエントリーした。沼尻会長は「参加人数が減らなかった。これだけ中学生は全中に懸けているんだとわかった」と改めて大会の大きさを知ったそうだ。

 沼尻会長は「逆の発想で、大会を派手にしようと思った」と、運営にも一工夫した。高校時代の後輩で、自転車製造メーカーの社長を務める海老澤寛氏から、高級マウンテンバイク2台を提供してもらい
(右写真上)、男女それぞれの最優秀選手賞の副賞とした。海老澤氏は「中学校の大会と思って足を運んだが、レベルが高くてびっくり。自転車を提供したかいが十分にありました」と感想を述べ、「大会を盛り上げるのに、お役にたててよかった」と笑顔で話した。

 そのほかにも海外試合を参考にし、チャレンジのビデオチェックを大型スクリーンにプロジェクターを使用して会場の全員が見れるように工夫をしたりと、新たな試みが多数された
(右写真下)

 震災の傷は残りつつも、被災地・水戸で全国大会を昨年以上の盛り上がりで終えたことで、沼尻会長も「思い出に残る大会になった」と感無量の様子。運営側の努力が選手たちに伝わったのだろうか、試合でも男子で史上4人目となる大会三連覇の選手が誕生し、大会二連覇が4人と、記録尽くしの大会となった。



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