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【特集】旅費は1人15万円! 熱い情熱で大会参加を継続…鹿児島・沖永良部クラブ
【2011年8月1日】

(文=樋口郁夫)




 鹿児島県といえば、1983年世界王者の江藤正基、1984年ロサンゼルス五輪王者の宮原厚次を筆頭に、五輪選手のべ16人を輩出。日本を支えたレスリング王国のひとつ。日本協会の栄和人・女子強化委員長(198年ソウル五輪代表)も鹿児島県出身で、日本女子の強さを作り上げたのも鹿児島県人。日本レスリング界への貢献度は全国でもトップクラスだ。

 ところが、キッズ・レスリングはあまり盛んではなく、この大会には沖永良部クラブから4選手が参加しただけ。今回は6年生+57kg級で大栄拓摩が見事に優勝したが、大坪繁代表は「近くにクラブがないと、強化もできません。盛んになってほしいですね」と、同県キッズ・レスリングの隆盛を願う。
(右写真=大栄と大坪代表)

 大坪代表は京都・南京都高でレスリングを教え、現在の男子グレコローマン120kg級王者の新庄寛和(自衛隊)を育てた。家の事情で2001年に地元の沖永良部島に帰り、2003年にチームをつくって現在に至っている。「小さい島ですから、子供たちに夢となるものを与えないと」という理由からで、「(予選をしなくても)全国大会に出られる」という魅力をアピールして選手を集めた。

 クラブ開設に必要なマットやキャンバスの購入はすべて自腹だった。「子供たちのためのほか、レスリングをやらないと自分も元気がなくなってしまいますから」と、レスリングへの並々ならぬ情熱が支えだった。

■離島のハンディを情熱で補う

 その全国大会への出場は2004年から8年連続。今回は子供でも1人約12万円で、大人なら15万円を超える経費がかかっており、経済的な負担は大きい。「東京開催ならディズニー・ランド観光を抱き合わせるとか、夏の旅行を兼ねてつないできました」。今年は帰郷の際に東京に1泊するが、時間の関係で建設中のスカイツリーを見るぐらいになりそうだという。それでも、「毎年参加することが、他の子供たちにとっても大切なことです」と、全国大会への参加は続けてく予定だ。

 関東や関西のチームには、年間20大会近くに参加し、合同合宿などで強化に努めているチームもある。島のチームには望むべくもない。一番近くのクラブといえば奄美大島にあるクラブだが、それでも船で7時間もかかってしまう。

 「大会には頻繁に出場できず、練習試合すらできませんので、なかなか技術を覚えることができません」と言う。島に数人いるレスリング経験者が時に指導してくれ、技はビデオテープを見せて教えたりしているそうだが、「全国レベルには及ばないです」というのが現実だ。

 現在の部員は約20人。子供が少なくなっていることに加え、他のスポーツに取られてしまう悩みはどこも同じ。それでも、レスリングへの情熱はゆるがず、今大会で全国王者誕生の栄光を引き寄せた。鹿児島本土(島でない地域)にキッズ・クラブがないので、最近では沖縄県のチームと交流するなどし、強化に努めている。離島のチームの意地に期待される。



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