【特集】「何が何でも勝ちたかった。悔しい!」…松本慎吾




 計量が終わって、組み合わせ抽選でオリンピック2連覇しているハムザ・イェルリカヤ(トルコ)との初戦を引いた日本期待の84kg級の松本慎吾(一宮運輸)。昨年の大会で大接戦し、この1年間の最大の標的だけに、初戦での激突に「やったぞ、という気持ちと、やられた、という気持ちが半分ずつでした」と複雑な気持ちだったという。

 昨年の釜山アジア大会で優勝した松本は、今年の春から夏にかけて約2ケ月間、ヨーロッパを回って修行した。その成果を試すに舞台。決まったからには、初戦激突であっても臆してはならない。積極的に攻め、パッシブを受けても強いパーテールポジションの防御を見せ、修行の成果を発揮した。

  イェルリカヤ得意の俵返しもうまく切れた。しかし両選手が倒れたところで松本が返され、イェルリカヤが2点を獲得。そのあと、昨年の対戦と同じように守りに入られてしまった。これだけの強さを持った選手にがっちりと守られては、ポイントを取ることができない。まだ壁を超えることはできなかった。

 松本は「イェルリカヤとは、これで3度目の対戦です、彼が得意にしている俵返しがかからないようにと、グラウンドの守りに重点をおいていました。でも、勝つことが第一だったので、何がなんでも勝ちたかった。とにかく悔しい」と振り返った。

 夜のセッションでは、豪州の選手相手にタックル、俵返し、一本背負いで投げ、1分もかからずにテクニカルフォール勝ち。1回戦で負けた悔しさをぶつけたものの、予選リーグを突破できずに心は晴れない。「ものたりない。もっと試合をしたかった。今後は気持ちを切り替えてオリンピックを目指します。グラウンドでしっかり守ること、得意の俵返しでしっかり得点をとってゆくのが課題です」と話し、来年の2度のトライアルで五輪出場資格獲得を目指す。

 世界選手権初出場の55kg級の豊田雅俊(警視庁)は、1試合目を逆転勝ちしたあと、アジア3位のイム・ダオウォン(韓国)と対戦。先にパッシブを取ったものの、エスケープ・ポイントを許して1点を先行された。豊田がパッシブを取られた後、アトランタ五輪王者のシム・クォンホ(韓国)の得意技とよく似たハイ・ローリング(胸の辺でグリップを取って返しローリング)で3点を取られ、勝敗の流れを完全に持っていかれた。

 豊田は第2ピリオドでパッシブを2度取って攻めたものの、リフトでポイントへつなげることができず試合終了。「イムはジュニアのころからお互いに知っている選手で、自分が左差しが得意なのを知っています。全部やられましたね。1点もとれなかったというのは情けないですね」と悔しそうな豊田は、「また、明日から練習です。」と気を取り直した。

 66kgでは飯室雅規(自衛隊)が初戦のジャニス・ザマドウリディス(ドイツ)相手に胴タックルで先制したものの、第1ピリオドが終わる3秒前にリフトされ、大きく投げられて逆転され黒星。この試合で右まぶたを3センチほどカットし、手負いで臨んだ第2試合のイオン・パナイト(ルーマニア)戦は、逆にローリングで5点のリードを許したものの、第2ピリオドに入って一本背負いを決め、そのまま逆転フォール勝ちした。

 飯室は「これで3度目の世界選手権出場ですが、初勝利です。本当によかった。五輪の枠に届かなかったのは悔しいですけど、ひとつも勝たずに帰るのは、もっと嫌です」と第一声。5点差をはね返しての逆転勝利には「前半に、あんなに点を取られるとは思っていませんでした。5点も取られたので、あとはもう、投げるしかないと思って巻いていったら、相手が引っかかってきました」と言う。しかし世界の強敵を目の当たりにし、「まだまだ、世界の壁は厚いですね」と、勝った喜びは半分くらいといったところ。

 120kg級では、鈴木克彰(警視庁)が相手のローリングを止められず、2戦2敗で大会を終えた。「外国選手が相手では、グラウンドでは動かないと守れない。日本で練習していて、できるようになってきた、と思っていたけど、まだまだでした」と、日本選手と違う外国選手のローリングに舌を巻いた。しかし「だからといって環境のせいにするつもりはありません。松本も練習パートナーがいないと言われながら、日本で強くなったんですから」とも言う。
  
 結局、前半の4選手の選手はいいレスリングを見せたものの、1人も予選リーグを突破できず、アテネ五輪の出場資格は年明けのトライアルにかけることになった。(取材・文=ビル・メイ)



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