「米国選手を闘争心を学べ」…富山英明強化委員長、宮原厚次副委員長




  1月6日からスタートした男子の全日本チーム。指揮をとる富山英明強化委員長(日大教)と宮原厚次副委員長(自衛隊、グレコローマン・チーフコーチ)に、今冬の強化のテーマほかを聞いた。


 富山英明強化委員長:

 「どの選手も全日本選手権まで精いっぱいやってきて、その後の年末年始はダウンしてきたと思う。今回の合宿は落ちた体力を元に戻すとともに、全日本チームのメンバーとしての意識づけに主眼をおきたい。協会がいかにみんなをバックアップしているかを知らせ、奮起してもらう材料としたい。自分のためにがんばる、という意識では限界がある。『多くの人が、おまえのためにがんばっているんだぞ』と思ってもらうことで、戦うエネルギーが生まれてくるはずだ。

 1月下旬からの米国遠征では、ことし初の国際大会を経験させる。結果を求めるのではなく、自分の力が世界のどのあたりにあるかを自覚してもらうことをテーマにしたい。長所短所を再確認し、3月の欧州遠征までの課題とさせたい。

 米国チームとの合宿などで学んでほしいのは、技術以上に米国選手のファイティングスピリットだ。米国選手の技術は世界一とは思わないが、勝つことへの執着や試合での集中力、負けじ魂といったものは間違いなく世界一だ。気迫をもって試合やスパーリングに臨む姿勢をぜひとも肌で感じてほしいと思う。すばらしい技術を持っていても、ファイティングスピリットが劣れば勝てないし、技術は劣っていても気迫でカバーできれば次へつながる。

 遠征メンバーは全階級ではなく、各6選手とした。重量級選手は、昨年のアジア大会や世界選手権での戦いを見た結果、世界の強豪を相手に戦うだけの域に達していないと思われるので、今回は派遣しない。間違ってほしくないのは、「重量級は派遣しない」ではないこと。グレコローマン84kg級の松本慎吾は選抜されているし、彼にはチームとは別に嘉戸洋コーチがコーチ留学しているウクライナへ単身で向かわせることを計画している。結果と内容を残せば遠征のチャンスはいくらでも得られるし、金を使う。選抜にもれた選手は、この悔しさをばねに奮起してほしいし、奮起しなければならない。

 3月の欧州遠征は、フリースタイルはベラルシアとブルガリア、グレコローマンはユーゴスラビアとギリシアを予定。いずれも高いレベルの大会に出場する。旧ソ連や欧州選手の、卓越した勝つための戦術を学ばせたいが、選手は米国遠征の各6選手からさらに絞り、各3−4選手にする予定だ。やはり選手に刺激を持たせるためだ。全日本選手権で優勝して全日本チームに入ったからといって、安閑としていてはダメだというチームの姿勢を見せたい。

 冬の遠征で強化したいことは、やはり自信を持ってもらうことだ。よく「日本選手はスタミナで優っている」と言われるが、最初からとばさないで、リードされた後半になってやっと力を出すだけという場合がある。それはスタミナで優っていることにはならない。なぜ最初から100%の力でとばせないかといえば、自信がないからだ。最初からとばして必ずポイントを取れる自信や、ばてて守りに入ってもポイントは取られない自信があれば、開始直後からとばせるはずだ。

 かつて世界で勝ってきた選手、高田さん(裕司=モントリオール五輪金)、自分(ロサンゼルス五輪金)、佐藤(満=ソウル五輪金)らは最初から飛ばすことができた。もちろん、最初は相手も必死にブロックしてくるから、そうそうポイントは取れない。しかし何度も繰り返して攻めるうちに、相手のスタミナが切れてポイントを取れる。これが「スタミナで優っている」ということ。こうした戦いができるように、思い切って冒険してもらいたい。その中で自信がついてくれば、開始からとばせる戦いができるようになる。

 2度の遠征による各3−4大会出場は、決して結果を求める大会出場ではないが、できるなら1人でもいいから優勝してほしい。そうすれば、その選手を核としてチーム全体が刺激され、競技力の向上につながっていく。その目標をまず達成したい。


 宮原厚次グレコローマン・チーフコーチ:

 「今回の合宿、そのあとの各所属での練習で、体力をしっかり元に戻してもらい、米国遠征に臨んでもらいたい。最近の米国のグレコローマンは世界でも勝てているし、学ぶことは多い。一番学んでほしいのはファイティングスピリット。とにかく米国選手の勝つための気迫はすばらしい。

 その後の欧州遠征では、ロシア、キューバとの合同合宿が予定されているので、ここで技術や戦術をしっかり学んでほしい。短期間で身に付けることはできなくとも、何らかの糸口をつかんでほしいと思う。この欧州遠征では、当初6選手のメンバーを3−4選手に絞ることになっている。安閑とすることなく刺激を与えるためだ。はずされた選手には、志願してくるぐらいの気持ちを持ってほしいが、口だけなら誰でもできる。はずされて懇願するするくらいなら、それまでの練習と試合の内容でやる気を見せてもらいたい。1日1日が勝負だ。

 世界のグレコローマンは確実に変わっている。押し合いや組み合いに勝ってパッシブを取り、パーテールポジションから転がして得点。3点を取ったら、あとは攻撃しているふりをして逃げ切るというパターンだ。よほど力の差がない限り、首投げや一本背負いといったスタンド技はかからない。クリンチによって勝敗が分かれるケースも多くなっている。こうした流れに合った強化をしていかなければならない。

 日本というより、韓国以外のアジアは最初の押し合いではかなりの確率でパッシブをとられる。何よりもパーテールポジションで守れる力が必要。日本選手同士でやっていては、この力はつかないので、外国での合宿での課題となる。外国選手がどれだけ瞬発的な力を発揮して回し、リフトしてくるか、どれだけのスピードで技を仕掛けてくるかなどは、身をもって体験しなければ絶対に分からない。

 シドニー五輪での永田克彦選手のロシア戦の勝利は、防御がしっかりでき、第1ピリオドを0−0で終われたことにつきる。この戦い方は大いに参考になると思う。パーテールポジションの防御を強化し、ポイントをやらない力の養成をこの冬というよりアテネ五輪までの課題としたい。



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