【特集】アテネ五輪にかける(5)…フリースタイル84kg級・横山秀和



 日本レスリング界で初めて2大会ぶりの五輪出場を実現したフリースタイル84kg級の横山秀和(秋田・秋田商高教)。前回の1996年アトランタ五輪は日体大の助手としての出場で、十分に練習を積んだ末の五輪出場だったのに対し、今回は高校教員の仕事をこなしながらの五輪出場。全日本の合宿に来る度に「練習がしっかりできる」という新鮮な気持ちになったそうだ。

 高校の一学期の行事もすべて終わって夏休みに入ると、練習に集中できていよいよ五輪モード。待ち遠しさでいっぱいという感じで、「オリンピックを満喫したいって気持ち。8年ぶりですし、雰囲気を味わいながら、勝つために全力を尽くします。国際大会はこれが最後だと思う。悔いのないようにやりたい」と燃えている。

 8年前に比べると、体力面の衰え、特に回復の遅さは感じている。オーバーワークにならないことが課題だが、「追い込むところは追い込まなければならない。オーバーワークというより、そこからくるけがには気をつけたい」と、練習後のケアなどをしっかりやり、万全の体調をつくりたいと言う。

 技術的には、8年間に比べて足技がかかるようになっていると実感している。日本選手にとって、外国選手相手に上半身勝負は分が悪いだけに、これは大きなパワーになるかもしれない。

 もっとも、本人には「8年」という期間にそれほどのこだわりや快挙を成し遂げたという思いはない。「アトランタが終わったあとからアテネを目指していたわけじゃない。1年ごとに勝負していたし、アテネを目指すことを決めたのは2年前。大変だったとは思わないんですよ」と言う。そう言えるのも毎年の積み重ねがあればこそだろう。8年間で培ってきたことをアテネのマットで思い切り発揮してほしいものだ。

 アトランタ五輪では、大学の先輩でもある太田拓弥(フリースタイル68kg級)が茨城・霞ヶ浦高校の教員をしながら銅メダルを獲得した。横山も「生徒の存在は励みになりますよ。アテネを狙おうと決めたのも、レスリング部員の頑張りを見て刺激されてです」と言う。19人の部員からは日の丸の入った寄せ書きをもらったそうで、「今度は自分がそれ(教員にしてメダル獲得)をやって、期待に応えたいですね」と気合が入る。

 母子家庭で育った選手だ。8年前、中国の蕭山でアトランタ五輪出場を決めたとき、母のことを問われると、「ばか息子でしたからね」と目頭を熱くした。8年ぶりに同じ贈り物ができた。もう2度と贈ることはできないだろう最高の贈り物。悔いのない中身を詰めたいものだ。

(取材・文=樋口郁夫、
写真はいずれも7月21日、菅平


◎フリースタイル84kg級の強豪と横山秀和の対戦成績

 稀有の天才レスラーといわれたアダム・サイキエフ(ロシア)は代表をはずれたもよう。昨年の世界チャンピオンのサジド・サジドフ(ロシア)が優勝候補の一番手。シドニー五輪を含めて4年連続でロシア選手が優勝している階級であり、その壁をどこが崩せるか。

 全米大学選手権で4年連続優勝したカエル・サンダーソン(米国)、昨年世界3位のラバス・ミドラシビリ(グルジア)、ことしの欧州チャンピオンのゴエカン・ヤバサール(トルコ)、パンアメリカン無敵のヨエル・ロメロ(キューバ)あたりが優勝戦線にからんでくるだろう。

 横山は、2003年から世界選手権に復帰しているので、上位選手との対戦はそう多くはない。2002年世界3位のマジッド・コダエー(イラン)、2003年世界5位のマゴメド・クルグリエフ(カザフスタン)に善戦しているので、あと一歩の差を埋めることができれば上位進出できる位置につけている。

 ※横山秀和の最近の成績 ⇒ クリック


◎フリースタイル84kg級出場国と出場が予想される選手

03年世界選手権1位  
ロシア(Sajid Sajidov)
03年世界選手権2位  
米国(Cael Sanderson)
03年世界選手権3位  
グルジア(Revaz Mindorashvili)
03年世界選手権4位  
ベラルーシ(Siarhei Borchanka)
03年世界選手権5位  
カザフスタン(Magomed Kurguliev)
03年世界選手権6位  
キューバ(Yoel Romero)
03年世界選手権7位  
トルコ(Gohan Yavaser)
03年世界選手権8位  
アルメニア(Mamed Agaev)
03年世界選手権9位  
ルーマニア(Nicolae Ghita)
03年世界選手権10位 
フランス(Vincent Aka Akesse)
二次予選(1)1位    
ウクライナ(Eldar Asanov)
二次予選(1)2位    
日本(横山秀和)
二次予選(1)3位    
イラン(Majid Khodaei)
二次予選(1)4位    
韓国(Moon Eiu-Jae)
二次予選(1)5位    
ブルガリア(Arkadiy Tzopa)
二次予選(2)1位    
ドイツ(David Bichinashvili or Andre Backhaus)
二次予選(2)2位    
タジギスタン(Shamil Aliev)
二次予選(2)3位    
インド(Anuj Kumar)
二次予選(2)4位    
マケドニア(Mogomed Ibragimov)
開  催  国      
ギリシャ(Lazaros Loizidis)


◎2000年シドニー五輪〜2003年世界選手権成績

 ※各種成績は、ここをクリック(pdfファイル)

 【2000年シドニー五輪】=85kg級

 ▼決勝トーナメント1回戦
Magomed Ibragimov(マケドニア)○[4-2=8:45]●Charles Burton(米国)
Adam Saitiev(ロシア)○[5−0]●Hyung-Mo Yang(韓国)

 ▼準決勝
Adam Saitiev(ロシア)○[3−0]●Magomed Ibragimov(マケドニア)
Yoel Romero Palacio(キューバ)○[3−0]●Amir Reza Khadem Azghadi(イラン)

 ▼5・6位決定戦
Charles Burton(米国)○[不戦勝]●Hyung-Mo Yang(韓国)

 ▼3位決定戦
Magomed Ibragimov(マケドニア)○[4-1=8:25]●Amir Reza Khadem Azghadi(イラン)

 ▼決勝
Adam Saitiev(ロシア)○[フォール、3:41=7-1]●Yoel Romero Palacio(キューバ)

 【2001年世界選手権】=85kg級

 ▼準々決勝
Yoel Romero Palacio(キューバ)○[5−0]●Andre Backhaus(ドイツ)
Khadshimurad Magomedov(ロシア)○[5−0]●Arkadii Tzopa(ブルガリア)
Brandon Eggum(米国)○[3-0=6:06]●Magomed Kurugliev(カザフスタン)
Beibulat Musaev(ベラルーシ)○[3-2=6:31]●Rasul Katinovasov(ウズベキスタン)

 ▼準決勝
Khadshimurad Magomedov(ロシア)○[3−1]●Yoel Romero Palacio(キューバ)
Brandon Eggum(米国)○[3−2]●Beibulat Musaev(ベラルーシ)

 ▼3位決定戦
Yoel Romero Palacio(キューバ)○[3−0]●Beibulat Musaev(ベラルーシ)

 ▼決勝
Khadshimurad Magomedov(ロシア)○[3-0=6:15]●Brandon Eggum(米国)

 【2002年世界選手権】

 ▼準々決勝
Majid Khodaee(イラン)○[4-2=8:24]●Aslan Sanakoev(ウズベキスタン)
Yoel Romero Palacio(キューバ)○[3−2]●Revaz Mindorashvili(グルジア)
Adam Saitiev(ロシア)○[7−3]●Marcin Jurecki(ポーランド)
Arkadii Tzopa(ブルガリア)○[3−1]●Andre Backhaus(ドイツ)

 ▼準決勝
Yoel Romero Palacio(キューバ)○[3−0]●Majid Khodaee(イラン)
Adam Saitiev(ロシア)○[フォール、0:38=3-0]●Arkadii Tzopa(ブルガリア)

 ▼3位決定戦
Majid Khodaee(イラン)○[7−1]●Arkadii Tzopa(ブルガリア)

 ▼決勝
Adam Saitiev(ロシア)○[4-3=6:27]●Yoel Romero Palacio(キューバ)

 【2003年世界選手権】

 ▼準々決勝
Sergey Borchenko(ベラルーシ)○[3-2=6:07]●Magomed Kurugliev(カザフスタン)
Sazhid Sazhidov(ロシア)○[3-0=6:33]●Yoel Romero Palacio(キューバ)
Cael Sanderson(米国)○[3−0]●Mahmed Aghaev(アルメニア)
Revaz Mindorashvili(グルジア)○[4-1=6:07]●Goekhan Yavaser(トルコ)

 ▼準決勝
Sazhid Sazhidov(ロシア)○[5−2]●Sergey Borchenko(ベラルーシ)
Cael Sanderson(米国)○[4−2]●Revaz Mindorashvili(グルジア)

 ▼3位決定戦
Revaz Mindorashvili(グルジア)○[6−2]●Sergey Borchenko(ベラルーシ)

 ▼決勝
Sazhid Sazhidov(ロシア)○[4−3]●Cael Sanderson(米国)




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