【特集】ラファエル・マルティニティー国際レスリング連盟(FILA)会長に聞く【2009年10月4日】



 国際レスリング連盟(FILA)の会長として、各種改革に積極的に取り組んでいるラファエル・マルティ二ティー会長(スイス)。2012年ロンドン五輪における女子の7階級実施には失敗したが、今後も福田富昭副会長(日本協会会長)らとともに、積極的に動いてくれるものと思われる。

 世界選手権期間中の9月25日に、日本の報道陣の取材に応じてくれた。(聞き手=樋口郁夫ほか日本報道陣、通訳=ターニャ古賀)


 ――今年の夏から、2012年ロンドン五輪で女子が7階級実施になるという情報が世界のレスリング界を駆け巡りました。そのてん末をご説明していただきたい。

 「夢を現実のものとして動いてしまった。IOC(国際オリンピック委員会)は、階級を今以上に増やすことはどうしてもできないということだった。3スタイル6階級ずつならいいだろう、とのことだが、男子をこれ以上減らすことはできない。ただ、IOCはレスリングに対する評価を上げてくれている。女子が発展していることもきちんと理解してくれている。これは将来に向けて明るい材料なので、ロンドン五輪以降の実施にむけて、これからも交渉を続ける。そのためにも、2016年大会は東京で開催してほしい(10月2日にリオデジャネイロに決定)」

 ――IOCのジャック・ロゲ会長は、五輪の肥大化防止のため、「28競技、300種目(金メダルの数)、1万500選手」の上限を打ち出しています。ロゲ会長が続く限りは、厳しいのでしょうか。

 「いや、彼は交渉しやすい会長だ。ロゲ会長は2012年の会長改選までは、実施競技・種目をあまりいじりたくないのだと思う。2012年に再選されれば、思いきった改革をしてくれると予想している」

 ――IOCに対してFILAの発言力を高めるために、具体的にどんな対策をやっていますでしょうか。

 「残念ながら厳しい状況だ。各IF(競技連盟)の会長はIOCのメンバーになれるきまりがあるが、スイスからはすでに5人がIOCのメンバーになっており、それ以上は入ることができない。FILA会長としてIOCに多くの意見は伝えているが、力が及ばない面がある。ただ、意見は多く言っているし、通してもらってもいる。IOCのメンバーではないから、言いたいことを好き勝手に行っている面もある。内部にいたら、しがらみがあって言えないことも出てくると思う」

 ――柔道ではドレスコード(服装規定)が新設され、セコンドにスーツとネクタイの着用を義務づけられました。紳士のスポーツを強調することが狙いですが、レスリングは?

 「レスリングの場合、スーツにネクタイはねえ…。コーチがマット上の選手に大声でアドバイスを送るのには、ちょっとふさわしくない姿だと思う。今のままでいいと思う」

 ――ルール改正はいかがでしょうか。

 「昨年からいろいろテストし、固まった今のルールでいいと思う。今回の大会でも、観客はかなり熱狂してくれた。これから先、改正するつもりはない。チャレンジ(ビデオチェック要求)の導入もよかった。誤審をした審判員への処罰を厳しくしていく必要がある」

 ――今回の世界選手権は、午後1時開始という過去の例のないスケジュールでした(従来は午前9時頃からスタートし、3時間程度の昼休みをはさんで午後5時頃から再開していた)。この意味は?

 「デンマークに限らず、ヨーロッパの多くの国は仕事の開始時間を朝5時とか6時とかに早めることで、午後2時には仕事を終えることができる。デンマーク協会の『大会を経済的に成功させるためにできるだけ多くの観客を集めたい』という希望で、人の集まりやすい時間に試合を集中させた。サッカーやボクシングなど他のスポーツでは、この時間帯より遅くまでやっているものも少なくない(今大会の全試合終了は午後9時半)。今回、テスト的にやってみたが、多くのチームが評価してくれている。改正するとしたら、計量時間(今大会は午前11時半)だ。第1セッションと第2セッションの間の夕方に30分〜1時間の休憩ができるので、この時間にできると思った」

 ――来年の大会もこのスケジュールでしょうか。

 「だぶん、そうなるだろう。FILAの理事会などで意見を聞いて決めたい。大都市の場合は、交通渋滞の中で午前のセッションと午後のセッションのわずかな時間で会場とホテルを往復するのは時間的に無駄だと思う」

 ――昨年の北京五輪にカザフスタンで出場した選手が、今年、ロシアで出場しました。こんなことが認められるのでしょうか?

 「え? 全く知らなかった。本当か? 規則で出場できない」

 ――結婚して名前が変わっているので、気がつかれなかったようです。ロシアからカザフスタンに移し、またロシアに戻した。規定ではこれも違反。二重に違反しています。

 「すぐに調査したい。大問題だ。関係した人間を処分する」(その後、順位のはく奪へ=関連記事

 ――こうしたことをやっていては、世界のスポーツ界からレスリングが見下される。規則は守るべきだと思います。

 「その通りです。こうしたことを見逃さない日本のジャーナリストはすばらしい」

 ――ゴールデンGP決勝大会(7月・アゼルバイジャン)では、各階級の優勝賞金が1万ドル(約90万円)というレスリング界では破格の賞金大会が実施されました。今後も増えていくのでしょうか?

 「コールデンGP決勝大会は、2012年までそれだけの賞金を出してくれるスポンサーが見つかったことで実現しました。それ以外にも賞金マッチはあるし、多くなっていくでしょう。ただ、世界選手権、大陸選手権で賞金を出すことは反対です。これらの大会に賞金がかかると、闘う選手同士で話し合いが行われたり、賭けの対象になってしまうかもしれない。選手権の目的は一番強い選手を決めることであり、それ以外の目的は一切必要ない」


《iモード=前ページへ戻る》
《トップページへ戻る》
《ニュース一覧へ戻る》
《ニュース一覧(2008年以前)へ戻る》