【女子W杯総評】終盤の攻防の弱さ克服が今後の課題【2009年3月25日】



 昨年の北京五輪と世界女子選手権の日本代表9選手のうち、出場したのが63kg級の西牧未央(中京女大)ただ1人という今年の女子ワールドカップの日本チーム。栄和人監督(中京女大教)は、「大会史上初めてメダルを逃すことも覚悟していた。7・8位決定戦に回ることになっても、その現実を受け止める」とまで口にし、「0」からのスタートとなる事態さえも考えていたようだ(右写真=福田富昭j会長からねぎらわれる栄監督)

 結果は昨年と同じ3位入賞で、最低限度の目標はクリア。欧州選手権直前のため二番手を派遣してきたベラルーシ、ウクライナには圧勝し、実力を見せた。十数年にわたって世界のトップを占めてきた日本の地力は、世代交代があっても、「0」にまで落ちることはなかった。

■露呈してしまった終盤の弱さ。今後の課題は「最後まで闘えること」

 原動力となったのが48kg級の三村冬子(日大)、51kg級の堀内優(京都・網野高)という2人のニューフェイス。栄監督は「予想以上の出来。しっかりと鍛えれば頼もしい戦力になる」と話す。

 その言葉には、他階級の選手に刺激を与える意図もあるのは明白だ。ここ5〜6年、世界選手権や五輪の日本代表選手が強すぎて、今回の代表選手にはどうしても「2番手」というイメージが残っている。周囲が勝手に思っているだけならいいが、本人たちの気持ちはどうか。もう日本を引っ張っていかねばならない立場になった。勝利に対して、もっとどん欲になり、勝つことに執念を見せなければなるまい。

 ラスト10秒を切ってから勝ち越されたり、逆転負けするのは、勝利への執念の希薄さと言ってもさしつかえないだろう。ラスト数秒での逆転勝ちもあったが、全体として終了間際の攻防の弱さが感じられた。こうしたことが続けば、外国選手から「リードされていても最後に勝てる」という気持ちを持たれてしまう。いや、すでに持ってしまったかもしれない。

 「日本選手が相手では、リードされて終盤を迎えたら、もう勝てない」と思わせる強さがあれば、相手のあきらめも早くなろうというもの。日本全体としてこうしたイメージをつくっていくことが、個々の選手の試合に還元していくのである。

 2回戦が終わったあと、福田富昭会長はコーチ陣を集めてゲキを飛ばした。その内容は「最後まで気を抜かせるな」ということだった。栄監督は「2分3ピリオドを気を抜かずに闘える選手でなければ、世界で勝ち抜くことはできない」と話し、今後の最重要課題が、集中力を2分間続けることになりそうだ(左写真=試合に負けた選手に厳しくアドバイスする栄監督。後方左は三村、右は堀内)

■五輪が終わって、すべてがリセット。過去の肩書は通じない!

 今大会では北京五輪チャンピオンのキャロル・ヒュン(48kg級=カナダ)と王嬌(72kg級=中国)が、ともに一敗地にまみれている。いずれもずば抜けた強さの選手ではなかったが、五輪前にずば抜けた強さだったスタンカ・ズラテバ(72kg級=ブルガリア、今大会は出場せず)ですら今年だけで2敗を喫している現実は、「五輪チャンピオン」「世界チャンピオン」という肩書は、世界のレベルの向上により、何の役にも立たない時代に突入したことを意味している。

 栄監督は「日本は強い、というイメージの時代は終わった」と話す。これまで通じた「JAPAN」という“力強い武器”は、外国選手に対しては何の脅威にもならなくなった。「だからこそ、コーチの腕の見せどころであり、真価が問われる」と言う。

 絶対的なエース(吉田沙保里)抜きで闘った今年のワールドカップ。目先の勝利にこだわらない選手起用は、今後の強化の方向を探し出せたという大きな収穫があった。団体世界一奪還はならなかったものの、ロンドン五輪へ向けて貴重な大会となったことは間違いない。

(文・撮影=樋口郁夫)


《iモード=前ページへ戻る》
《前ページへ戻る》