【特集】「北京五輪代表を破る選手を育成する」…栄和人・女子強化委員長に聞く【2009年3月16日】



 2012年ロンドン五輪での全階級金メダル獲得を目指し、全日本女子チームが始動した。ここ数年間、全日本チームを支えてきたアテネ・北京両五輪代表の伊調千春、伊調馨、浜口京子の3人が抜けてのスタート。来週にはワールドカップ(21〜22日、中国・太原)の試練に臨む。

 北京五輪までと同じく全日本女子チームの指揮をとる栄和人・女子強化委員長(中京女大教=右写真)に、新年度にかける意気込みを聞いた。(聞き手・撮影=樋口郁夫)


■五輪選手が3人抜けて、若手を育てる絶好のチャンス

――男子が1月から活発に活動し欧州遠征で強化したのに比べ、女子は始動が遅かったが。

 「去年の秋に世界女子選手権があり、出場した選手のみならず練習相手もかなり心身を消耗した。12月には全日本選手権があり、『1月からモチベーションを上げて全日本合宿に出て来い』というのは、ちょっと無理があると思った。男子に遅れをとってはならないという気持ちもあったが、まず各所属でしっかり練習し、それぞれ気持ちを高めて全日本合宿に出て来てもらおうと思った」

 ――男子の積極的な活動に対して、焦りみたいなものは?

 「焦りというより、佐藤満強化委員長のち密な強化活動を見習わなければならないと思った。定期的に体力測定を実施し、いろんなデータを集めてあらゆる方向から強化し、選手に伝える理論もしっかりしている。選手のモチベーションを上げる努力もしていると聞いている。ボクから見ても、こうしたことの積み重ねが好結果につながっていくような気がする。男子に負けてはならない、という気持ちはある」

 ――五輪代表のうちの3人、世界チャンピオンのうちの2人(坂本日登美、正田絢子)が引退や休養で全日本合宿にいない。このチームで今年の闘いを勝ち抜けるのか。

 「去年並みの成績を残せるかどうかは分からない。しかし、若くてスパーリングのできる女子コーチ(吉村祥子、坂本日登美)を入れており、全力で若手を強化したい。北京五輪の代表が戦線に戻ってきても、それらの選手を破るような選手を育成する。若手とベテランの激しい闘いの中でこそ、世界で勝つ実力がついていく。去年の主軸がいないことを特に心配はしていない。逆に若手をじっくり育てるチャンスだ」(左写真=藤川健治コーチの指揮のもとで練習する新・全日本チーム)

 ――具体的な強化計画は?

 「多くの選手を海外遠征に派遣する予定だ。去年までは世界選手権やオリンピックで勝つために、ともすると1番手のみが遠征し、2番手、3番手は国際経験を積む機会が少なかった。今年からはトップ選手だけでなく2番手、3番手が参加できる遠征をつくりたい。6月に遠征を予定しているほか、7月のゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)も資格を取った選手には参加してもらうつもりだ」

■若手中心で臨むワールドカップ、どんな結果であっても受け止める

 ――目前に迫ったワールドカップでの目標は?

 「当然優勝を狙うが、正直なところ、発展途上の選手が多いので3位に入れるかどうかは分からない。どんな結果になっても現実を受け止める。そこから強化が始まる。合宿最初のミーティングで、『このメンバーじゃダメだ。オリンピック選手がいないとねえ、などと言われたいか』と問いただした。そんなことを言われないように、全力を尽くしてほしい」

 ――外国チームは伸びているでしょうね。

 「このワールドカップの結果と内容が世界選手権につながる。結果と内容をしっかり研究し、世界選手権までの課題としたい」

 ――ワールドカップのあと、2週間後に世界選手権の代表選考を兼ねた全日本女子選手権(4月4〜5日、東京・駒沢体育館)がある。今回の代表選手は調整という点で不利になる。

 「国内の大会に照準を合わせるため世界の闘いを避けたかった、なんて考えは持たないでほしい。日本代表なら『両方勝つ』という気持ちがなければならない。そうした気持ちがなければ、オリンピックでメダルは取れない」

 ――世界選手権の代表は、従来の3戦2勝システム(全日本選手権と全日本女子選手権で連勝すれば代表、優勝選手が違った場合はプレーオフ)ではないと聞いた。

 「基本は2勝した選手を代表に選ぶ。しかし、全日本合宿に出てこない選手は代表をはずすつもりでいる。高校生や大学生で授業の関係でどうしてもやむをえない場合は仕方ないが、そうではなく、けがなどの理由で全日本合宿に不参加の選手は、代表をはずしたい。強化委員長としてそう考えている。協会がどう判断するかは分からないが」

■全日本女子チーム合宿日程(予定)
 4月26日(日)〜5月2日(土): 東京・ナショナルトレーニングセンター
 5月21日(木)〜27日(水): 東京・ナショナルトレーニングセンター
 6月23日(火)〜28日(日): 新潟・桜花レスリング道場
 7月21日(火)〜27日(月): 新潟・桜花レスリング道場
 8月10日(月)〜17日(月): 東京・ナショナルトレーニングセンター
 9月9日(水)〜15日(火): 東京・ナショナルトレーニングセンター

■ジュニア・カデット世代の強化もぬかりなくやる

 ――五輪代表選手としてただ1人、全日本合宿に参加している吉田沙保里選手に望むことは?

 「中京女大での練習を見ても、手を抜かない。練習の最初から最後まで全力でやっている。こうでなければならないことを若手選手に示してほしいし、やってくれると思う」

 ――初めてシニアの世界一になった西牧未央選手(63kg級)に望むことは?

 「自覚が出てきている。世界チャンピオンになったと、今まで以上に自分から進んで練習するようになった。筋肉もついてきたし、今年も絶対に世界選手権で優勝してほしい」

 ――1月下旬にジュニア選抜がカナダ遠征へ、今月はカデット選抜がスウェーデンへ行った。両大会に同行した吉村コーチからの報告は?

 「どの選手もやる気を持っており、育て方によっては強くなれる選手が多いと聞いている。この世代で国際経験を積ませるのはいいことだ。シニアが充電期間だったということであり、若い世代の強化はやってきた。男子と同じで、女子もチェンジの時期。若い選手に経験を積ませたい」

 ――最近、関東のチームも選手が多くなってきましたね。

 「いいことだ。競技人口が増えていけば自然と厳しい闘いが展開され、全体の底上げになる。環太平洋大学(岡山)も闘いの輪の中に入ってきてほしい」


《iモード=前ページへ戻る》
《前ページへ戻る》