【特集】日本で行われるもうひとつの高校生大会…アメリカン・スクール大会【2009年1月13日】



 日本ではどちらかというと“オフシーズン”である冬だが、欧米では冬が“レスリング・シーズン”。その冬の間、日本協会および傘下連盟が直接タッチしていないながらも、まずまずの規模のレスリングの大会が毎週、開催されている。アメリカン・スクールのチームによる大会で、米軍基地内の高校や都内のアメリカン・スクールのほか、防衛省管轄の少年工科学校(横浜修悠館高=旧湘南通信高)、最近では日本の一般の高校チームも時に参加し、盛況を見せている(右写真)

 今冬は12月5日の青森・三沢基地での大会に始まり、横須賀基地、座間基地、横田基地、佐世保基地などで毎週トーナメントが開催されている。その間、水曜日は対抗戦が実施され、2月の中旬までの約2ヶ月半、選手たちはひっきりなしに何らかの大会に出場している。

■日本協会は審判の斡旋で協力

 米国の高校レスリングといえば、カレッジスタイルと思いがちだが、実施されているのはフリースタイル(ただし、階級はポンド制)。日本協会が直接かかわっているわけではないものの、日本で開催する以上、日本協会にいろんな支援を求めてスタートし、そのためフリースタイルで実施することになったらしい。

 木口道場の木口宣昭代表(日本協会総合格闘技委員長)は1973〜76年に座間アメリカン・ハイスクールの監督を務めていた。また和田貴広・嘉戸洋の前日本協会専任コーチ(現強化委員)の国士大時代のコーチでもあったビル・メイ氏(本HP英文ページ&欧州担当記者)は、コーチとして東京のセントメリー・ハイスクールにかかわっていた。

 現在も、日本協会は審判員の斡旋(あっせん)という形で協力している。間に立っているのが、横須賀基地に勤務し、そのレスリング・チーム「シーホークス」の野田隆嗣監督(左写真)。この種の大会の審判長でもある。元九州レスリング協会会長だった野田実氏(故人=立大OB)の長男で、20年くらい前までは全日本社会人選手権に出場しており、当時現役ばりばりだった栄和人・現日本協会女子強化委員長と闘ったこともある人だ。

 「審判員の確保が大変です」。学生の審判員を起用したところ、日本人では考えられないような感情的かつ執拗な抗議、時にイスを投げつけられたりしたこともあり、嫌になって去られたりもしたという。フリースタイルをよく知らないがゆえの的外れの抗議もあるそうで、ルールを説明しても納得してくれないコーチもいる。それだけに、き然とした態度の審判を確保しなければならない(右写真=体格のいいコーチに詰め寄られる審判)

 大会が行われる米軍基地内は事前申請が必要なため、欠員が出た場合に急に代役にお願いするわけにはいかない。確実に来てもらえるかどうかをチェックするなど、「シーズン中は胃の痛む毎日です」と話す。

 それでも、「日本の高校生の刺激になるはず」と、近辺の高校にかけあって参加してもらい、大会を盛り上げようと奮闘している。横田基地での大会に埼玉栄高校が参加してくれ、その思いも進んでいる。

■技術面では日本の方が上だが、見習いたい“フォールを狙うガッツ”

 年明け最初の大会は、神奈川・横須賀基地で行われた「2009 BEAST OF THE EAST WRESTLING TOURNAMENT」。参加したのは、地元の横須賀基地(Kinnick高)のほか、青森・三沢基地(Edgren高)、東京・横田基地、神奈川・座間基地、長崎・佐世保基地(EJ King高)、沖縄基地内(Kadena高とKubasaki高)の各米軍基地内の高校のほか、東京のセントメリー高、CAJ高校、神奈川の横浜修悠館高。13階級に約120選手が集り、2階級は女子選手が男子選手に混じって特別参加した(左写真=108ポンド級に出場した大楠ジュニアの香山芳美選手。中学生ながら2位に入賞)

 米国チームは日本のように年間を通じてやっているわけではなく、冬の3ヶ月間のみの活動で、春は陸上か野球、夏から秋はアメリカンフットボールに打ち込む。したがって、技術的・実力的には日本の高校生の方が間違いなく上。この大会も、横浜修悠館高が13階級中4階級を制し、2位2人、3位1人で、総合得点で優勝した。

 アメリカン・スクールにはフリースタイルの本格的なコーチがいないこともあり、グラウンド技の主流のガッツレンチはほとんど見ることがない。タックルで倒してネルソンかエビ固めでフォールを狙うのが一般的。あとは相手の技を巻いてフォールを狙うシーンが多く見られる。

 学ぶものはない? いや、日本選手にはないすばらしい姿勢がある。いったんニアフォールの体勢に追い込むと、何が何でもフォールを狙ってくることだ(右写真=フォールを狙う選手)。最近の一般的な傾向として、一瞬でもニアフォールに追い込んで2点を取ると、深追いせず、体勢を元に戻し攻撃をひと休みする。特に2分3ピリオド制になってからは、それが平均的な試合だ。勝つためにはこれが正しいのだろう。

 だが、米国選手は一たびニアフォールに追い込むと、ポイントでリードしていて残り時間が10数秒であってもフォールを狙ってくる選手が多い。「レスリングは相手をフォールするスポーツ」の原点を感じさせてくれる勝利への姿勢。ポイントをリードされながらもフォールの体勢に持ち込んだ時、常日頃からフォールを狙う気持ちを持って闘っているかどうかが、逆転フォールできるかどうかの分かれ目。米国選手のこうしたガッツを目にすることは、決して無駄ではないだろう。

■自主性と団結力に長ける米国チーム

 米国選手は骨格が太くてパワーがあり、ひげモジャで高校生とは思えないような選手もいる。気持ちで負けない精神力をつけるためにも、日本の高校選手が参加する価値はあるだろう。

 3年生を引き連れて(1・2年生は南関東大会出場のため)参加していた横浜修悠館高校の田村茂一部長(日大・自衛隊体育学校OB=1998年全日本選手権54kg級優勝、左写真)は「米国チームのチームワークの強さを感じる。部長や監督が何も言わなくとも、選手たちが結束し、勝利を目指して燃えている」という面にも、参加する意義を見い出している。

 それを見習わせ、今大会はあまり口うるさいことは言わずに選手たちに任せたという。他に、将来の自衛隊の貴重な戦力になる人間であっても米軍基地にはそう簡単に入れないため、「いい経験ができる。英語に接する機会もあって、人間としての社会勉強になる」と、その効果を説明する。

■2月13〜15日の極東大会で今シーズは終了

 野田さんは「(米国選手が)3ヶ月間だけのレスリング生活というのは、もったいないですね」と話しつつ、それらの選手が米国へ戻ってレスリングをやることになった時、「フリースタイルをやったことが生きてくれれば」と期待している。

 今シーズンは、2月13〜15日に沖縄で行われ、グアム、韓国の高校も加わっての「極東大会(ファー・イースト)大会」をもって幕を降ろす。日本で米国の高校選手が熱く燃える大会に注目だ。

(文・撮影=樋口郁夫)


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