「今回の経験をもとに、今年は優勝選手の輩出を」…第1回世界グラップリング選手権報告【2009年1月9日】

世界グラップリング選手権 日本チーム監督 鎌賀秀夫(スポーツ会館)


 国際レスリング連盟(FILA)が認定したレスリングの新スタイル「グラップリング」の記念すべき第1回世界選手権が12月20〜21日、スイスのルッツェンで行われ、総合格闘技を経験している3人の選手とともに参加してきました。

 結果は、道着を着ない「No−Gi」92kg級の久能孝徳選手(チーム太田章)と、道着着用の「Gi」80kg級で鶴屋浩選手(パラエストラ松戸)が、ともに銅メダルを獲得しました。まだ基盤ができていない中での参加という状況を考えれば上出来だったと思います(成績は下段参照、右写真=日本選手団、左から栗栖達也選手、太田章コーチ、鎌賀、久能孝徳選手、鶴屋浩選手)。

 鶴屋選手の準決勝の敗戦は、ルールをよく把握していなかったことが原因です。そうでなければ決勝に進めたと思います。日本で全く知られていないスタイルなので、これは仕方ないことで、今後の課題となるでしょう。日本は総合格闘技が盛んであり、グラップリングの世界で台頭する下地は十分にあると考えていいと思います。

■従来のレスリングとは離れたスタイルとして発展か?

 大会は40ヶ国を超える国がエントリーしていましたが、実際の参加国は21ヶ国でした。「No−Gi」に139選手(男子120選手、女子19選手)、「Gi」に106選手(男子88選手、女子18選手)。日本の3選手がそうであるように両部門に出場していた選手も数多くいました。

 「No−Gi」80kg級は35選手が参加しました。1ヶ国から複数選手の出場が認められていますが、選手数的にはフリースタイルやグレコローマンの世界選手権に匹敵する出場選手でした。しかし、レベル的には米国がずば抜けているほか、カナダ、フランスが目につく程度で、まだ発展途上の競技といえると思います。米国は国内で予選を開催して勝ち上がった選手が参加してきました。全米で普及発展しているわけで、それだけに今回の大会でも、No-Giは5階級すべて、全18階級中では8階級を制しました。世界のグラップリングは米国を軸に発展していくと思います(左写真=No−Gi125kg級で優勝した米国のジェフ・モンソン。「戦極」で闘うプロ選手だ)

 フリースタイルやグレコローマンで活躍している選手は見かけませんでした。背中をつけては負けになるスタイルと、そこからでも攻撃ができるスタイルとでは、全く別物なのだと思います。事実、タックルというレスリングの基本技術は、全くといっていいほど見かけませんでした。同じ水泳でも、競泳、飛び込み、シンクロ、水球が全く別の種目として発展しているように、グラップリングは従来のレスリングとは離れたスタイルとして発展していくのではないでしょうか。

 「Gi」は柔術に近い闘いですので、レスリング界からというより柔術界から人材を発掘し、世界で通用する選手を育てていくべきだと思います。従来のレスリングのように急速に息が上がる闘いではないので、ある程度の年齢になってからでも取り組める種目です。競技人口が増える可能性はあると思います。

■今回の経験をもとに、来年は優勝選手の輩出を

 大会は観客席のない軍隊の体育館で行われていました。櫓(やぐら)を組んで仮説の観客席が設置され、照明等の工夫があって盛り上げるための努力がうかがえました(右写真)。試合はマット3面で行われました。

 宿舎・食事等は決して満足いくものではなく、世界のスポーツに発展させるには今後の改善が必要に感じました。レフェリーも、米国人以外は稚拙と思える審判員もいました。スタートしたばかりの種目なので、選手とともに審判員の養成も必要になってくると思います。

 遠征には、1984年ロサンゼル五輪・88年ソウル五輪で連続銀メダルを取った太田章さん(早大教)にコーチとして同行していただきました。同コーチはこれまでにも米国で行われたアブダビ・コンバット大会を視察するなど、関節技のあるレスリングに注目してきた人です。今回もセコンドから的確なアドバイスを送っていただくなど、大変助かりました。

 人当たりがよく社交的な太田コーチのおかげで、初顔合わせだった私や選手たちもすぐに溶け込むことができ、勝利を目指して団結することができました。深く感謝するとともに、今後もグラップリングの普及と発展に尽力していただけることを期待します。

 グラップリングは、今年9月の世界レスリング・ゲームズ(リトアニア)で実施されるほか、第2回世界選手権が11月27〜29日に同じスイス・ルッツェンで行われます。今回参加した選手とコーチが中心となり、闘い方・勝ち方を研究し、他の選手に伝えることで、次回こそは優勝選手を輩出してほしいと思います。グラップリングの普及と発展を目指す組織も必要だと思います。日本レスリング協会として派遣するのであれば、予選をやって勝ち抜いた選手を合同練習で鍛え、それから派遣する必要があると思います。

 最後に、こうした記念すべき大会に派遣してくださった福田富昭会長、高田裕司専務理事ほか、多くの方々への感謝の気持ちをつづり、報告とさせていただきます。


90kg級 久能孝徳選手 80kg級 鶴屋浩選手 80kg級 栗栖達也選手 試合風景

 《日本選手成績》

 ◎No-Gi(道着なし)


 【80kg級】栗栖達也(パラエストラ松戸)     35選手出場

1回戦  BYE
2回戦 ○[判定]I. Bulut(トルコ)
3回戦 ●[ひざ十字固め]P. Quesada Stauffer(コスタリカ)

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 【80kg級】鶴屋浩(パラエストラ松戸)     35選手出場

1回戦  BYE
2回戦 ○[判定]MIchel Kelly(米国)
3回戦 ●[判定延長]D. Pierre-Louis(フランス)

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 【92kg級】久能孝徳(チーム太田章)     3位=26選手出場

1 回 戦  ●[判定]R. Davis(米国)
敗 復 戦 ○[判定]K. Webb(英国)
敗 復 戦 ○[判定]A. Dyas(カナダ)
3位決定戦 ○[アンクルホールド]P. Baginski(ポーランド)


 ◎Gi(道着着用)

 【80kg級】栗栖達也(パラエストラ松戸)     20選手出場

1回戦 ●[判定]Ilke Bulut(トルコ)

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 【80kg級】鶴屋浩(パラエストラ松戸)     3位=20選手出場

1 回 戦   BYE
2 回 戦  ○[腕十字固め]Alessandro Federico(イタリア)
3 回 戦  ○[判定]Mariusz Linke(ポーランド)
準 決 勝 ●[判定]M. Salazar Mousinho(ブラジル)
3位決定戦 ○[判定]Michel Kelly(米国)

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 【92kg級】久能孝徳(チーム太田章)     18選手出場

1回戦 ○[一本]Maciej Glabus(ポーランド)
2回戦 ●[判定]DAVIS, Raphael(米国)


 《各階級成績》

◎男子No-Gi

 ▼62kg級(15選手出場)[1]SANCHEZ Matt(米国)、[2]BARLOW Tom(英国)、[3]LOURO John(カナダ)、PETERSON Brian(米国)

 ▼70kg級(28選手出場)[1]LUNDELL Ricky(米国)、[2]RENIER Nicolas(フランス)、[3]FERREIRA J.(スペイン)、LECUYER Tom(米国)

 ▼80kg級(33選手出場)[1]VOLKMANN Jacob(米国)、[2]SALAZAR MOUSINHO M.(ブラジル)、[3]PIERRE-LOUIS David(フランス)、MICHALOWSKI Tomasz(ポーランド)

 ▼92kg級(26選手出場)[1]DAVIS Raphael(米国)、[2]MURPHY Ian(米国)、[3]RING Nick(カナダ)、久能孝徳(日本)

 ▼125kg級(18選手出場)[1]MONSON Jeff(米国)、[2]RUIZ(ブラジル)ndon(米国)、[3]ARZOUMANIDIS I.(ギリシャ)、MUNDURUCA Rodrigo(カナダ)

◎女子No−Gi

 ▼48kg級(2選手出場)[1]WARD Lisa(米国)、[2]NEWTON Lisa(英国)

 ▼55kg級(4選手出場)[1]FOUILLAT Laurence(フランス)、[2]OH Felicia(米国) 、LA ROSA Tara(米国)

 ▼63kg級(8選手出場)[1]BIRD Sheila(カナダ)、[2]HELSEL Molly(米国)、[3]DE LUNA Sara(フランス)、MCGILL Caoimhe(英国)

 ▼72kg級(5選手出場)[1]RUYSSEN Romy(フランス)、[2]TATE Miesha(米国)、ZAWODNIK Karolina POL

◎男子Gi

 ▼62kg級(6選手出場)[1]GARCIA Herminio(スペイン)、[2]PETERSON Brian(米国)、[3]BARLOW Tom(英国)、ZAPATER Jose(スペイン)

 ▼70kg級(16選手出場)[1]DOS SANTOS F.(フランス)、[2]KARKULA Mike(カナダ)、[3]CATISTI Joao(ブラジル)、FRANCESCHINI Simone(イタリア)

 ▼80kg級(20選手出場)[1]SALAZAR MOUSINHO M.(ブラジル)、[2]PIERRE LOUIS David(フランス)、[3]鶴屋浩(日本)、BULUT Ilke(トルコ)

 ▼92kg級(18選手出場)[1]MURPHY Ian(米国)、[2]PILAT Pierre(フランス)、[3]RAFFI Lamberto(イタリア)、HERB Gregor(ドイツ)

 ▼125kg級(8選手出場)[1]MUNDURUCA Rodrigo(カナダ)、[2]SZATKOWSKI Gregorz(ポーランド)、[3]BINEK Hermann(ドイツ)、SZCZEPANSKI J.(ポーランド)

◎女子Gi


 ▼48kg級(2選手出場)[1]WARD Lisa(米国)、[2]NEWTON Lisa(英国)

 ▼55kg級(4選手出場)[1]FOUILLAT Laurence(フランス)、[2]LA ROSA Tara(米国)、MCGILL Caoimbe(英国)

 ▼63kg級(6選手出場)[1]BIRD Sheila(カナダ)、[2]HADZISULEJMANOVIC A.(スウェーデン)、[3]WELLENZHON Rosa(イタリア)、DE LUNA Sara(フランス)

 ▼72kg級(6選手出場)[1]RUYSSEN Romy(フランス)、[2]HARDIE Alaina(カナダ)、[3]ZAWODNIK Karolina(ポーランド)、KLAMMSTEINER Julia(イタリア)


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