【特集】グレコローマンのクリンチに理不尽さあり…FILA新ルール


     

     


 11月13〜14日に行われた全国社会人オープン選手権は、全国大会としては初めて国際レスリング連盟(FILA)が2005年1月から実施する新ルールで行われた。初日には日本協会から福田富昭会長、高田裕司専務理事、内藤可三審判委員長らが訪れ、初の新ルールの試合を視察。審判員も、例年は自衛隊選手OBなどが中心となって行われていたが、今回は関西から国際審判員を呼んで新ルールを体験させ、全国へのルール浸透をはかった。

 多くの選手が、まだ新ルールの全容を理解していないようだったが、「2分3セットの2セット先取制」「ガッツレンチやアンクルホールドは何回転でもできる」「スタンド戦でゾーンの外に飛び出した時には1失点」といった最低限度のルールは把握しており、場外際では外に飛び出すことを避けて必死に回り込んでマット中央へ戻ろうとする姿勢があった。そのため試合が中断することが少なく、フリースタイルでは試合の流れがスピーディーになったことは間違いないようだ。

 ただグレコローマンに関しては、これまで「パッシブ → パーテールポジションからの攻撃」が主流だったこともあり、2分間のスタンドの攻防では両者0点というケースが相次ぎ、0−0のままクリンチ勝負という試合が続出。クリンチの制限時間が20秒であるため、コイントスで勝って有利な組み手を組んだ選手も、この時間内では攻撃ができずセットを落とす試合が多かった。

 最終日のグレコローマンを視察した富山英明強化委員長は「クリンチ勝負では、コイントスで勝った選手が明らかに不利になっている。これはおかしい。日本協会として、早急にFILAに報告し、コイントスで勝った選手に(先組みか後組みかの)選択権を与えるというルールへの変更を要求したい」と話した。

※関連記事 ⇒ 2004年8月20日(1)2004年8月20日(2)2004年10月28日


 日本社会人連盟・村上功理事長の話「日本協会からの要請で新ルールを試行的に実施した。試合前に新ルールの説明会をやってもらい、選手は戸惑いはあっても対応しようと努力していたと思う」
 
 
日本社会人連盟・本間良一審判委員長の話「日本協会に協力し、新ルールを先取りして採用した。場外に出ると1失点となるルールのおかげで、特に重量級の試合などで、これまでのように0−0のまま試合が終わることがなくなった。ゾーンの上にいくと、マットの中央へ戻ろうという姿勢がはっきりと出ていた。審判をやっていても、ホイッスルを吹くことが少なくなった。実力差があれば試合は4分以内で終わるから、大会進行は速くなるでしょう。面白いかどうかは個人によって違うでしょうけど、以前より見やすくなっていると思います」

 
日本協会・内藤可三審判委員長の話「場外際に押されても、回りこもうとして、マットの中央で試合をやろうという姿勢がはっきりと表れている。相手が回りこめないように場外に押し出してポイントを取る技術も必要になってくるだろう。今大会で実施した目的は達せられたと思う。全日本選手権のレベルでどんな試合が見られるかは分からないが、ルールをうまく使って1点を取る選手も出てくると思う。パッシブ(消極性)はなくなったが、相手の攻撃から逃げる技術回避は1失点か2失点になるので、ルールをしっかりと理解してほしい」

 
両スタイル84kg級優勝・太田充洋選手(03年全日本選手権グレコ84kg級2位)の話「先取点を取ることが大事になりますね。1点を先制した方が絶対に有利。タックルで確実にポイントを取る力が必要になってきます。練習では、長い時間のスパーリングより、1点を取るまでという1点スパーリングが必要になってくると思います。ただ第3セットにもつれたらスタミナ勝負になりますから、スタミナ練習も必要だとは思います。相手を場外に出すと1点になるので、前にプレッシャーをかける力が重要になってくると思います。逆に考えれば、押されて回りこむ技術がなければ簡単に1点をやってしまうわけで、このあたりの技術も身につけなければならないでしょう。相手を場外際へ追い詰め、足をひっかけて場外へ出すというテークダウンを取らずに1点を取るテクニックも出てくると思います」

 
フリー74kg級優勝の本名栄仁選手(2002年全日本社会人チャンピオン)の話「場外際の攻防は、これまで以上に緊張しますね。相撲みたいな感覚で戦うことが必要で、押しの強さが必要になってくると思います。差したり、組み手で勝って相手に圧力をかける技術です。練習は、もちろんスタミナ練習も大事だと思いますは、やはり瞬発系の練習がより必要でしょう。ローリングやアンクルホールドは何回転でもできるから、その練習も必要です。ただパッシブを取ってのパーテールポジションがなくなるわけですから、自分の力でテークダウンを取らないと。(来年4月の)JOC杯からは高校生もこのルールになります。どんなふうに指導すればいいか、まだ研究しなければなりません」




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