▲一覧ページへ戻る

 

【年始特集】4年目の飛躍へ! JOCエリート・アカデミーの過去・現在・未来(2)【2011年1月3日】

(文=樋口郁夫)



 選手集めという点で困難に直面しながらも、動き出したJOCアカデミー。1年目は、スタート直後の全国中学生選手権で1年生の白井勝太が66kg級5位、2年生の宮原優が41kg級3位の成績を挙げたほか、10月の全日本女子オープン選手権大会の中学生の部46s級で宮原優が優勝することができた(右写真:全国中学生選手権3位の宮原=左端。前年は37kg級で優勝していただけに、表情は沈んでいた)

 しかし、ともに小学生時代から全国に名前が通っていた選手であり、これらがJOCアカデミーの練習の成果なのかどうか、半信半疑で見られたのも仕方あるまい。菅監督は、チームとして実績がないことのほか、中学生を親元から離して生活させることに親が不安を持ったことも、選手をなかなか集められなかった原因だと分析する。

■専門的なエリート教育に対する親の不安もあった

 「親が子の生活を心配するのはもっともでしょう。また、今まで地域のキッズ・クラブで周1〜2回、多いところで3回程度練習していたのに対し、専門的な指導のもとで毎日練習する環境、すなわち英才教育についていけるかどうか、という不安もあったようだ」と言う。

 キッズ選手の指導で、しばし意見が分かれるのが、どの時点から高度な技を教えるべきか、ということ。「世界で闘える選手に育てるには、小さな頃から高度な技を覚えさせるべきだ」という意見がある一方、「小さな頃から高度な技、特に返し技を知ってしまうと、それで勝てるため、体力づくりや攻撃レスリングが身につかなくなる」という意見がある。

 菅監督は長年キッズ・レスリングに携わっており、現在は全国少年少女連盟の理事長。その経験からして、「小学生時代は基本と体力づくりでいいと思う。中学生になったら、国際級の技術を学び始める時期だと思っています」と言う。そのため、専門的な指導に対して不安を持つ親には「選ばれた選手なのだから、もう専門の練習をやらせるべきです」と説得した
(左写真=日本のレスリング界を支えるべくキッズ選手。正しく育てることが協会の役目)

 JOCは「スポーツさえできれば、それでいい」という方針はとっていない。英会話やライフスキル、コミュニケーションスキルを身につけさせ、社会性、人間性を向上させるためのプログラムも導入。学校の成績が悪ければ学習会を実施し、決して「レスリングを取ったら、何も残らない人間」を育てる組織でないことも強調。「信頼して預けてほしい」と訴えた。もっとも、そうすると「詰め込みすぎるのでは? と思われてしまった」と苦笑いする。とにかく、実績のないものを説明し、説得するのは大変だった。

■2009年に入り、選手が軒並み好成績を挙げた

 だが、2年目の2009年、柔道から転向したばかりの村田夏南子がJOCジュニアオリンピック(カデット60kg級)で優勝したのをはじめ、軒並み好成績を残したことで、状況は変化する。

 《JOCアカデミー選手の2009年の主な成績》

■クリッパン女子国際大会
 ・宮原優勝 カデット46kg級優勝

■全日本女子選手権
 ・宮原優 スクールガール44kg級優勝
 ・花田彩乃 スクールガール57kg級3位

■JOCジュニアオリンピック
 ・村田夏南子(東京・安部学院高) カデット60kg級優勝
 ・古市雅子(JOCアカデミー) カデット60kg級3位

■全国中学生選手権
 ・白井勝太 66kg級優勝
(右写真の上)
 ・宮原優 46kg級優勝
(右写真の下)
 ・古市雅子 58kg級2位

■アジア・カデット選手権
 ・村田夏南子 60kg級優勝

■全国高校女子選手権
 ・村田夏南子 60kg級優勝

■全日本女子オープン選手権
 ・宮原優 カデット46kg級3位
 ・村田夏南子 カデット57kg級優勝
 ・古市雅子 スクールガール62kg級優勝
 ・花田彩乃 スクールガール57kg級2位

 菅監督は2009年秋、翌春(第3期生)のためのスカウトをし、2選手にアカデミー入りを打診したところ、「親御さんともども『最高の名誉』と喜んでくれた」と振り返る。2年間のアカデミーの成果が実り、その存在がレスリング界で認められた出来事だった。

(続く)




 《関連記事》
★2009年8月18日: 【特集】“高校女子レスリング”の東日本の横綱へ…東京・安部学院が4階級制覇
★2009年8月2日: 6階級で優勝…アジア・カデット選手権(女子)
★2009年6月16日: 【特集】エリート教育の成果出る! JOCアカデミーの宮原優が2度目のV、白井勝太も2年生チャンピオンへ
★2009年4月5日: 宮原優(JOC/レスリングアカデミー)が3連覇…全日本女子選手権(スクールガール)
★2009年3月17日: 4月からJOCアカデミーに男子1選手、女子2選手が加入
★2009年3月8日: 登坂絵莉、宮原優、田中亜里沙、土性沙羅が優勝…クリッパン女子国際大会



  ▲一覧ページへ戻る