(文=樋口郁夫)
【年始特集】4年目の飛躍へ! JOCエリート・アカデミーの過去・現在・未来(3)【2011年1月5日】
(文=樋口郁夫)
2年目である程度の結果を出し、3年目の2010年もユース五輪優勝などの結果を残して経過した2年9ヶ月(右写真=ユース五輪優勝の宮原優、提供=鎌賀秀夫)。菅芳松監督は「予定通りというか、考えている以上の成果が出た」と言う。
特に先月の全日本選手権で、女子51kg級の宮原優が大学生2選手を破るなどして3位に入賞できたことは。大きな成果と考えている。「宮原はユース五輪で優勝したけれど、それは同年代の選手が相手。ある意味では当然のこと。シニアの間でも勝てたということは、私たちの指導が間違っていなかったことだと思っています」と説明する。
また、柔道から転向した3選手が、いずれも中学と高校の全国チャンピオンに輝いてくれたことも大きな成果と感じている。「いま、中学や高校でチャンピオンになっている選手は、ほとんどがキッズ時代にレスリングをやっていて、強かった選手です。その中で、キャリア2年前後の選手が優勝してくれた。素養のある選手しか採用していませんが、レスリングの初心者でも伸ばすことができる指導をやってきました」と胸を張る。
《JOCアカデミー選手の2010年の主な成績》
■クリッパン女子国際大会 | | | | | | | | | | | | | | | | | | | |
■全国中学生選手権 | | | | | | | | | | | | | | | | | | | |
■全国高校女子選手権 | |||
宮原優 | カデット46kg級優勝 | 乙黒圭祐 | 42kg級2位 | 村田夏南子 | 60kg級優勝 | ||
古市雅子 | カデット60kg級3位 | 白井勝太 | 66kg級優勝 | ||||
花田彩乃 | 58kg級優勝 | ■全日本女子オープン選手権 | |||||
■JOCジュニアオリンピック | 古市雅子 | 64kg級優勝 | 宮原優 | カデット49kg級優勝 | |||
白井勝太 | カデット69kg級2位 | 村田夏南子 | カデット60kg級優勝 | ||||
村田夏南子 | ジュニア59kg級優勝 | ■アジア・カデット選手権 | 向田真優 | 中学52kg級優勝 | |||
宮原優 | カデット46kg級優勝 | 白井勝太 | 69kg級3位 | 花田彩乃 | 中学58kg級2位 | ||
古市雅子 | カデット60kg級2位 | 宮原優 | 46kg級優勝 | 古市雅子 | 中学64kg級優勝 | ||
■ユース五輪アジア予選 | ■世界ジュニア選手権 | ■全国中学選抜選手権 | |||||
宮原優 | 46kg級優勝 | 村田夏南子 | 59kg級優勝 | 乙黒圭祐 | 42kg級2位 | ||
村田夏南子 | 60kg級優勝 | 白井勝太 | 73kg級2位 | ||||
■ユース五輪 | 花田彩乃 | 57kg級優勝 | |||||
■アジア・ジュニア選手権 | 宮原優 | 46kg級優勝 | 古市雅子 | 70kg級優勝 | |||
村田夏南子 | 59kg級優勝 |
■最新のスポーツ医科学の下での「体力トレーニング」と「けがの治療」
「私たちの指導」とは、技の指導もさることながら、徹底した基礎体力トレーニングだという。「世界で勝つには、1日に何試合も勝ち抜くための体力がなければ勝てない」という方針のもと、専門家をつけての体力トレーニングを実施。それも、まだ成長途上の選手には過度なウエートトレーニングはさせずに基礎トレーニング中心にするなど、医学的見地から分析してのトレーニングを施しているという。
「これもJOCアカデミーだからこそできることです。一般の指導者では、選手を医学的見地から分析できません」。JOCアカデミーの選手の好成績は、やみくもに猛練習をやらせた結果ではないという。けがをした場合でも、最近は「気合で治せ」といった前時代的なチームはほとんどないだろうが、専門のドクターの診断を簡単に受けられるところは少ない。JOCアカデミーでは、専門医のもとで治療に最善を尽くすシステムが整っている。
けがによって、あるいは、けがの蓄積によって、これまでにどれだけ多くの有望選手が世界トップへの道を断念していることか。JOCアカデミーは、あくまでも長期的視野に立った選手強化を目指し、着実に結果を出している。(左写真=2010年4月の第3期生入校式)
■東洋大の移転で、男子の高校選手の練習環境がよくなる
男子の江藤正基コーチ(1983年世界選手権グレコローマン57kg級金メダリスト=前自衛隊)は、2010年を「女子については十分な成果。男子は全国中学生選手権で1選手しか優勝できず、全国中学生選抜大会で優勝を出せなかったのは、悔しい思いですね」と振り返る。
ただ、勝つことだけがすべてではなく、負けて知ることも多い。全国中学生選抜大会では、全国大会2連覇の白井がいやがおうでも注目され、「これまでにないプレッシャーの中での大会だったと思う。これも経験。順風満帆(まんぱん)がすべてではない」と、つまずきをプラスに変えてほしいと要望する。
5人いる女子選手とは対照的に、体重が大きく違った男子選手の練習は大変だったというが、その中でも創意工夫を凝らして練習してきた自負がある。出げいこを引き受けてくれた近郊の高校や大学の協力があればこそできたことであり、江藤コーチは協力チームに感謝の気持ちを表す(右写真=白井勝太選手と江藤コーチ)。
一方、今年、東洋大がすぐ近くに移転してくることが決まり、帝京高校進学予定の白井勝太が練習に加えてもらえることになった。彼に関しては、移動にかかるエネルギーがなくなることになり、追い風となりそう。ただ、「JOCアカデミー〜東洋大」というルートが固定されるわけではない。将来の進路については本人の意思を100パーセント尊重することになっており、「特定のチームだけとパイプをつくることはない」と強調する。
■いよいよ全日本チームの練習にも参加へ
また、これまでは男子選手の場合、全日本チームの選手とは体力もレベルも差がありすぎたので練習に加えさせることはしなかったが、「高校進学を機に参加させてみたい。ついていけると分かれば、その機会を多くしたい」とのこと。いよいよ世界を視野にいれた強化が始まる。
これまでにも、全日本チームとは直接練習することはなくとも、味の素トレーニングセンターで練習を見学させたり、日本代表選手を目の当たりにすることで、世界を目指すという意識を植えつけられたと感じている。全日本トップ選手と実際に肌を合わせて練習することで、「その気持ちが高まるはず。目標がはっきり見えてくる」と予想する。さらなる成長が期待されるところだ。
2011年度で注意する点は、白井が高校へ進むため、4選手に増える中学生選手と大会の日程が違うようになり、同じような指導はできないこと。世界カデット選手権(8月・ハンガリー)に出ることになれば、さらに違ってくる。「中学生選手の指導とを、しっかり区別してやらなければならない」と、大変なことも増えるが、選手数が増えることのメリットは大きいと感じている。「大勢いた方が、活気が出てきます」。選手がいなくて苦労した状況を乗り越え、いよいよ正常な形で回転が始まりそうだ。
(続く)
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